医療レベルの低下、急速な経営赤字に陥る「名門」
東京で名門とされるのは戦前からの御三家である慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学に加え、順天堂大学、昭和大学、東京医科大学の6校でしょう。このうち3校が、文科省の調査で「不適切」と認定されました。一方、それ以外の東京の私大医学部5校うち、「不適切」と認定されたのは、わずかに日本大学だけです。半分と20%では大きな差があります。
私が注目するのは、「名門大学」では、教授の大半を自校卒の医師が務めることです。特に臨床系で、その傾向が強くなります。『医育機関名簿2017-18』(羊土社)を用いて、我々の研究所が調べたところ、臨床系教授(特任や客員は除く)のうち、自校の卒業生が占める割合(大学院卒も含む)は、慶應義塾大学の86%を筆頭に、最下位の順天堂大学でも50%でした。順天堂大学は天野篤(あまのあつし)心臓血管外科教授を筆頭に、スター教授を外部から招聘しますが、それでもこの数字です。
ちなみに、「その他」の5大学に分類された帝京大学は2%。教授陣の多くは東京大学など別の大学の出身者です。このような「人事交流」が学内に異なる文化を持ち込んでいるのかもしれません。
「名門医大」は純血主義です。そして、そのことを誇りに思っています。国立大学を卒業し、ある「名門医大」の教授を務めた人物は「毎年、新年会の理事長の挨拶では、団結や母校愛が強調され、なかば強制される。余所者には入れない独特の世界」と評します。
余談ですが、東京の大学で閉鎖的な大学が、もう一つあります。それは東京大学です。教授の大半は自校出身で、鼻持ちならないエリート意識をもっています。東京大学から不祥事が続出している病理も、「名門医大」と似ています。
話を戻しましょう。閉鎖的な環境で生まれる名門意識が関連病院との付き合い方もいびつにします。慶應義塾大学OBである土屋了介・元国立がん研究センター中央病院長は「東大と比較して、名門とされる私大は関連病院を完全に仕切りたがる。慶應の場合、関連病院を慶應一色にしがちだ」という。
慶應義塾大学の代表的関連病院である済生会中央病院は、29の部長ポストがありますが、我々の研究所が調べたところ、そのうち24を慶應義塾大学卒(大学院を含む)が占めていました。
この傾向は慶應義塾大学に限った話ではありません。東京医科大学の系列である戸田中央病院では、理事長、院長、4人の副院長全員、部長以上31人中、20人が東京医科大学出身(大学院を含む)でした。
「その他」に分類される医大は関連病院も少ないため、このようなことは起こり得ません。このような状況の中、首都圏の大学病院の経営は急速に悪化しています。
明治以来、首都の医療を守ってきたのは私大医学部です。ところが、閉鎖的な男性社会に閉じこもり、「世間知らずのエリート」ばかりの集団になってしまいました。女性差別、裏口入学、贈収賄まで罷り通り、性犯罪が多発しています。医療レベルは低下し、専門病院には歯が立たなくなっています。
偏差値や知名度に囚われた「医学部選び」は危険
『ナニワ金融道』の著者である青木雄二氏は、以下のように言います。
「カネ貸しはね、自分より賢いやつにゼニは貸しません。これ、鉄則でっせ」
「金融業者は弁護士にはカネを貸さない。追い込みをかけようとしても、あれこれと頭のいい抜け道を使われたら、金融業者の手に負えなくなってくる。けど、医者には貸す。医者はいくら頭がよくても、やはり世間の知識にうといから、金融の抜け道なんていうのは知らない。学校の先生や警察官、公務員もこの類いだから、金融業者にとっては、絶好のカモである」(『ゼニの人間学』青木雄二著、ロングセラーズ)
医師は医学バカであってはなりません。医学的な専門知識とともに、社会的な常識が必要です。グローバル化、情報化が進む世界で、求められる「社会的な常識」は増えています。どの医学部で学べば、バランスのとれた医師になれるか、大学の偏差値や知名度にとらわれず、考えてみてください。
※『慈恵医大青戸病院事件――医療の構造と実践的倫理』(小松秀樹著、日本経済評論社)泌尿器科医の責任追及に終始せず、医療システムの問題まで切り込んでいます。小松氏は2000年代半ばの医療安全対策や医療事故調査委員会の制度設計で、議論をリードしました。
上 昌広
内科医/医療ガバナンス研究所理事長
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