狭き門のはずが…「医学部合格者の学力低下」を嘆く教授らの罪

年々人気が高まる「医学部」。志願者の増加に伴い、受験戦争は熾烈を極めている。しかし「最近の医学生は出来が悪い」と低評価を下す教授らが増えており、アンケートでも圧倒的多数が「学力が低下した」と回答。医学部は最難関ではなかったのか? 医大生の能力の変化をデータで比較・検証し、その実態に迫る。※本連載は、上昌広氏の著書『ヤバい医学部』(日本評論社)より一部を抜粋・再編集したものです。

NEW!! 【医師限定】オンライン対話型セミナーはこちら

NEW!! 富裕層のための「寄付・遺贈寄付特集」はこちら

「優秀」「出来が悪い」で評価二分…最近の医大合格者

医学部の教授たちは、学生のことをどのように見ているでしょうか。医学部は大学受験の最難関です。優秀な学生が集まっているはずです。ところが、指導する医学部教授の評価は違います。

 

「最近の学生は出来が悪い」

「高校で習っておくべき、基礎的な教養が身についていない」

 

このように嘆く人が少なくありません。このことは、医学部教授を対象とした調査でも示されています。

 

2012年11月に全国医学部長病院長会議が発表した「医学生の学力低下問題に関するアンケート調査報告」では、全国にある80の医学部のうち、75校の担当者が「医学生の学力が低下している」と回答しているのです。

 

その理由として「ゆとり教育(65校)」、「医学部定員の増加(58校)」、「若者全体のモチベーションの低下(44校)」、「医学部教員の多忙(43校)」が挙げられていました。

 

特に、多くの医学部長や病院長が、2008年から実施された医学部定員の増員が悪影響を与えたと考えています。1966年は18歳人口の700人に1人が医学部に進んでいましたが、2013年には136人に1人となっています。医師専用の情報交換サイトであるエムスリーのインタビューで、福島統氏(東京慈恵会医科大学教育センター長)は「門戸は昔よりかなり広がっている」と述べています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

一方、進学校の教師の中には、「最近の優秀な生徒は、みな医学部に行ってしまう」と嘆く人が少なくありません。

 

『週刊ダイヤモンド』2016年6月18日号に掲載された『特集最新医学部&医者』によれば、主要進学校の卒業生の多くが医学部に進学しています。

 

たとえば、2016年の受験では、東海高校(愛知県)は208人、ラサール高校(鹿児島県)は151人、灘高校(兵庫県)は150人、開成高校(東京都)は129人、桜蔭高校(東京都)は96人が医学部医学科に合格していました。

 

両者の主張は、真っ向から食い違います。果たして、どちらの言い分が正しいのでしょう。

過去30年間の「偏差値の推移」に着目

そもそも、どうやって医学部入学者の能力を評価すればいいのでしょうか。私は偏差値に着目し、医学部入学者の能力の変化を評価してみました。

 

もちろん、入学者の能力を評価することは難しく、学力だけがすべてではありません。ただ、学力は医学を学ぶ上で重要です。それに、毎年、予備校が大学の偏差値を評価し、公開しているため、定量的に評価できます。偏差値は各予備校が総力をあげて弾き出す数値であり、やる気や人間性のような主観的な評価と異なり、客観性があります。各大学の合格難易度を、もっとも正確に反映したものと言っていいでしょう。

 

もちろん、単純に医学部の偏差値を調べても意味がありません。大学進学率は1990年の25%から、2017年には53%に上昇しているため、難関大学の偏差値は、おしなべて上昇しているからです。

 

医学部の入学者のレベルを評価するには比較対象が必要です。そこで、私は東京大学の理科一類と比較しました。東京大学理科一類が、わが国を代表する理系学部であることに異存がある人はいないでしょう。

 

私は、国公立大学医学部を対象に、2016年と1985年の偏差値を比較しました。偏差値は河合塾が発表しているデータを用いています。

 

私大医学部を対象から除外したのは、私大医学部は受験日をずらしているからです。合格者の多くが入学を辞退します。表向きの偏差値と実際の入学者の偏差値に乖離がある可能性があります。

 

この調査結果をご紹介しましょう。調査を担当したのは、医療ガバナンス研究所の研究員である矢野厚君と当時、旭川医科大学の学生だった村田雄基君(現南相馬市立総合病院研修医)です。

偏差値上昇…30年前より圧倒的に難しい「地方国公立」

まず、1985年の国公立大学医学部、および東京大学理科一類の偏差値を図表1に示します。1985年とは、現在の教授や准教授が医学部に入学した頃です。

 

[図表1]1985年の国公立大学医学部、および東大理科一類の偏差値

 

トップは東京大学理科三類と京都大学で偏差値は70でした。大阪大学(65)、名古屋大学・東北大学・九州大学・北海道大学・神戸大学・東京大学理科一類(62.5)と続きます。

 

東京大学・京都大学・大阪大学の医学部が最難関で、東京大学理科一類と旧七帝大の医学部はほぼレベルの難易度です。地方国立大学の医学部はかなり見劣りします。

 

では、2016年の段階ではどうでしょう。図表2に各大学の偏差値を示します。

 

[図表2]2016年の国立大学医学部、および東大理科一類の偏差値

 

上位は東京大学理科三類・京都大学・大阪大学(72.5)、名古屋大学・東北大学・千葉大学・東京医科歯科大学・山梨大学(70.0)と続きます。

 

東京大学理科一類の偏差値は67.5で、1985年と比較して大幅に順位を下げています。二期校だった岐阜大学、山口大学、旭川医科大学と同レベルです。

 

二期校とは、かつて3月下旬に入学試験を行っていた大学です。3月上旬に入学試験を行う一期校に旧七帝大などの有力大学が集中したため、多くの受験生が「滑り止め」で受けました。今回の結果は、年配の方は俄(にわか)には信じられないでしょう。

 

では、この30年間に、どのような大学の偏差値が上がったのでしょう。結果を図表3に示します。

 


[図表3]1985年と2016年の国立大学医学部、および東大理科一類の偏差値の変化

 

偏差値が上昇したのは山梨大学、弘前大学、岐阜大学、旭川医科大学(12.5)、琉球大学、三重大学、福島県立医科大学、福井大学、名古屋市立大学、長崎大学、千葉大学、島根大学、高知大学、熊本大学、香川大学、秋田大学(10)と続きます。

 

一方、偏差値の変化が少なかったのは、東京大学理科三類、京都大学で2.5しか上がっていません。ついで、東京大学理科一類、北海道大学、奈良県立医科大学、札幌医科大学、神戸大学、群馬大学、九州大学、金沢大学で5です。

 

地方の国公立大の医学部が急速に難しくなり、いまや東京大学理科一類と同レベルになっていることがわかります。

内科医
医療ガバナンス研究所理事長 

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究する。著書に『ヤバい医学部 なぜ最強学部であり続けるのか』(日本評論社)、『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)など。

著者紹介

連載東大医学部卒の内科医が語る「医学部」の実態

ヤバい医学部 なぜ最強学部であり続けるのか

ヤバい医学部 なぜ最強学部であり続けるのか

上 昌広

日本評論社

医学部受験生、現役医学生、保護者必読! しがらみにとらわれず、国をも超えて医療活動ができる最強の資格(職業)、「医師」。 医学部の人気はとどまるところを知らず、入試の難度はますます高くなっている。 しかし…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧