医学部の不正入試問題が発覚したのは2018年のこと。その後2019年入試が終わっても、文科省は指摘があった10大学の状況を報告したのみで、2020年12月に至るまで他大学の情報を公表しなかった。文科省が情報開示に消極的だった当時、筆者らは独自に調査し、データ分析を行った。入試における性差別が疑われる大学はどこか。問題発覚以前と以降ではどのような変化があったのか。合格比率が是正されればこの問題は解決と言えるのか。独自調査データを紹介するとともに、性差別の実態に迫る。

 

※本記事は2019年12月刊行『ヤバい医学部』(日本評論社)より一部抜粋・再編集したものです。

問題発覚から翌年、文科省が公表したデータでは

「医学部の女性差別は本当になくなるのですか?」

 

医学部受験を希望している女性から相談を受けることがあります。2018年に医学部入試での女性差別が発覚して以降、受験生は不安を抱いています。

 

執筆当時、2019年の入試はすでに終了しており、女性差別が改善されたか否か検討できるはずですが、文部科学省は情報開示に消極的です。当時までにやったことは、6月25日に問題が指摘された10大学の状況を報告しただけでした。その10大学とは、東京医科大学、順天堂大学、北里大学、聖マリアンナ医科大学、神戸大学、岩手医科大学、昭和大学、日本大学、金沢医科大学、福岡大学です。

 

この調査によれば、男性合格率/女性合格率は、女性受験者差別が判明した4大学で東京医科大学が3.11から0.98、順天堂大学が1.93から0.95、北里大学が0.86から0.78、聖マリアンナ医科大学が1.47から0.79と劇的に改善していました。

 

何らかの問題はあったものの、女性差別は指摘されていない6大学でも女性の合格率が向上した大学がありました。昭和大学が1.49から0.78、日本大学が2.02から0.87です。常識的に考えて、このような大学も女性を差別していた可能性が高いでしょう。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

他71大学、問題発覚「以前」「以降」の男女別合格率

では他の71大学はどうなっていたでしょうか。当時、文科省に問い合わせたところ、情報を開示する予定はないという回答でした。私は濱木珠恵医師(ナビタスクリニック新宿院長)と共同で、2019年の医学部入試における男女の合格率を、それ以前の2013~18年と比較してみました。

 

2013~18年のデータは文部科学省が全大学について公開しています。2019年の10大学以外のデータは、「ハフィントンポスト」が独自に調査していましたので参照しました(※1)。ハフィントンポストと文部科学省のデータとは一致しないものがありましたが、その場合は文部科学省のデータを使用しました。

 

図表1は、2019年と例年(2013~18年)の男性合格率/女性合格率の比を示しています。X軸が2013~18年、Y軸が2019年の合格比です。1より大きいと、女性の方が合格しにくいことを意味します。全体的にX>1,Y>1の大学が多く、46校(57%)が含まれています。

 

[図表1]医学部の男女別合格率、2019年と2013~2018年の比較

 

図表2は2016~18年の入試で男性優位だった大学のリストです。のべ30校中、16校が国公立大学です。問題は一部の私立大学に限らないようです。

 

[図表2]2016~18年に男性が合格しやすかった医学部

 

このような大学で女性差別が行われているのか、あるいは、このような大学の入学試験では何らかの理由で、女性より男性の方が合格しやすいのかは、私にはわかりません。ただ、いずれにせよ、女性の受験者は、このような大学は避けた方が無難です。

女性差別という「校風」…入試の場に限らない大問題

注目は、図表1で、X>1、Y<1の領域に含まれる大学です。例年は男性優位でしたが、女性優位に変化しました。

 

この群の13校には女性差別を認めた東京医科大学、順天堂大学、北里大学、聖マリアンナ医科大学や、特定の者を優先させていた昭和大学や日本大学も含まれています。

 

ほかには、筑波大学、金沢大学、鹿児島大学、福島県立医科大学、日本医科大学、東海大学、兵庫医科大学も名を連ねます。

 

私は、このような大学も女性受験者にはお勧めしません。濱木医師は「私が受験生なら、女性差別をしている大学を受験したくない。女性である自分には不利だし、不正入試が行われるのは、そういう校風だからなので、問題は入試だけではないだろう。学びの場としての魅力を感じない。」と言います。

 

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上 昌広

日本評論社

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