秋田大学医学部で持病を理由に面接で不合格
鳥集 確かにその側面はありますね。アスペルガーのようなこだわりが強い人のほうが、面白い研究ができるかもしれません。
和田 2011年のことですが、秋田大学では、入試で非常によい成績だったにもかかわらず、高校時代に起立性調節障碍という持病があってほとんど高校に行けずに高校卒業程度認定試験から医学部を受験した女性に面接で0点をつけて不合格にするという出来事がありました。病気を治すべき医学部が、過去に病気があったという理由で、面接で落としてしまう。これはおかしなことだと思いますがね。ついでに言うと、秋田大学医学部教授から、アカハラや当て逃げ事件などで懲戒処分を受ける人が続出しています。
鳥集 先ほど和田さんが言われたように、「働き手として使えるかどうか」という目線で入試面接を行っているということでしょうか。
和田 医学部面接は結局、そういうことになってしまうのです。だから女子差別とか、歳をとってから医学部に入ろうとした人を差別する温床となったのが面接です。全盲の弁護士とか身体障碍者の弁護士はいても、医学生でそういう人は聞いたことがない。おそらく障碍者差別もしているはずです。
東大医学部も、表向きは患者さんとまともなコミュニケーションが取れないような医者がいるという世間の批判をかわすために、再び入試面接を復活させたといいますが、患者さんにどんな態度を取るかというのは、それこそ、医学部教育の責任です。本人の気質の問題ではなく、指導医がどんな態度を取っていたかに影響されるものですよ。
だいたい、海外の名門大学では、教授は面接しないで、アドミッション・オフィスの専門の面接官が面接します。教授がやると教授に忖度するような人間が入るのですが、教授に喧嘩を売るような人間のほうが学問を進歩させるので、そういう人を積極的に採るそうです。日本でどうしても教授が入試面接をやりたいのは、医学部の同級生の子どもたちが医学部を受けるときに偉そうにできるという利権でもあるのかと思ってしまいます。
もちろん、合格者のなかには明らかにアスペルガー的で、社会性に欠けたオタクのような学生もいるでしょう。でも、そういう学生は、ひょっとしたらノーベル賞級の研究者になるかもしれません。
鳥集 つまり、東大医学部が面接を重視すればするほど、余計ノーベル賞から遠のくかもしれないと? しかし、とかく現代の医療は、かつてよりも医師のコミュニケーション能力が問われるようになりました。昔は、多少医師が威張っていたり、ぞんざいな言い方をしても許される風潮があったりしました。市民から「お医者様」と呼ばれていた時代、医師は、父親が子どもに教え導くような態度で接する「パターナリズム」*が理想とされていたのです。
しかし、1990年代後半からは、医師と患者の関係性は変化しました。欧米から、患者中心の医療という考え方のもと、「インフォームド・コンセント」という概念が移入されたからです。
◆パターナリズム
本人の意思にかかわりなく、本人の利益のためと称して、 本人に代わって別の人間が意思決定をすること。 父親的温情主義、父権主義ともいう。
和田 だから私は、国家試験で面接をやるべきだと前から提案しているのです。そうすれば、大学も国家試験の合格率を上げるためには、医学部6年間の授業のなかにコミュニケーション教育に力を入れざるを得なくなります。文科省は発想が逆なんですよ。
鳥集 それは仰る通りですね。私は以前、アメリカのデンタルスクールを取材したことがあります。そのスクールでは、自分が臨床実習をした患者さんにお願いをして、一緒に試験会場に来てもらうのです。試験会場では、受験生が歯の治療を実際にやっているところを試験官が見て、それを実技科目として判断します。
そういうプロセスが日本にはまだありません。日本でも、5年生、6年生の臨床実習のあいだに外の病院で実習をさせて、そこの病院の評価を国試に加えるという方法もあるはずなのです。コミュニケーション能力と医療スキルを両方一緒に評価するには、実習現場が一番いいでしょう。
和田 その通りです。国家試験の評価を客観的に判断して、臨床と研究に学生を分けていくのが、本当の適材適所というものでしょうね。
和田秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック院長 精神科医
鳥集徹著
ジャーナリスト
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