「色覚異常」とは、色を認識する力が弱い症状のこと。「色を判別しずらい」という人がほとんどで、それゆえに色覚異常に無自覚なまま生活を送っている場合も珍しくありません。しかし一見問題なく生活できているように見えても「色が判別しづらい」という状況は想像以上に危険です。一体どのように見えていて、どのようなリスクを抱えているのでしょうか?

信号は何色?自覚しにくい「赤緑色覚異常」の厄介さ

医学的な報告によると赤緑色覚異常の人は、信号灯に用いられる色を判断しづらい場合があるといわれています。

 

もちろん信号灯がついているか消えているかというのはよくわかりますが、赤信号と青(実際には緑)信号の色の区別がつきづらく、どちらも同じような色に見えてしまうといわれています。

 

信号灯は国際的に各灯火の色が決まっており、日本では外路信号灯の横型のものは左側が青、中央が黄色、右側が赤、縦型なら上から赤、黄、青です。こうした位置を理解しているため先天色覚異常であってもたいていの場合、信号灯を判断でき見誤ることはありません。

 

しかし気をつけなければならないのは、信号灯を見る時の周囲の環境です。たとえば高速道路を走っていたり、背景にネオン、街路樹や看板などのさまざまな色のものが集中していたり、天候が悪いというような悪条件が重なると、見誤ることがあり危険です。

 

ただし自分が色覚異常だと正しく理解していれば、注意して観察するため心配ありません。実際に色覚異常の方から話を聞くと、従来の信号であれば判別できますが、一灯の信号の場合では黄と赤の区別が困難で判断できず、止まって周囲の状況を確認し注意して進むそうです。

 

しかし、判断できないことを自覚していなければ、誤認したまま進んでしまうこともあります。本人が、色覚異常をまったく自覚していないと見落としてしまい、自分の命に関わる事故に巻き込まれてしまうリスクが生まれるのです。

 

*色覚異常者の見え方を、正常者の見え方に理論的にシミュレーションした画像です。また色の識別にはほかの要素も関係しているため、実際にはこのように見えているとは限りません。以後のシミュレーションも同様です。
[図表4]信号を見間違える *色覚異常者の見え方を、正常者の見え方に理論的にシミュレーションした画像です。また色の識別にはほかの要素も関係しているため、実際にはこのように見えているとは限りません。以後のシミュレーションも同様です。

98%の人が「危険を知らせる色」の判別困難

私たちの社会で使われているシグナルや警告サインの多くは、残念ながら色覚異常のある人たちに対して配慮されてはいません。それが最も顕著にあらわれているといえるのが、信号灯です。正常な色覚の持ち主にとって、赤と緑というのは最も違いがわかりやすい色です。信号灯もそれに基づき、赤は止まれ、青(実際には緑)は進め、と設定されています。

 

しかし皮肉なことに、先天色覚異常の人の多くが最も苦手とするのが、この赤と緑という組み合わせなのです。色覚異常のある方に、実験的に信号を識別してもらったことがあります。その際、この方は信号灯について、昼間でも日光の加減で赤信号に気づかないこともあり、夜間に走行中の前の車のテールライトも目立たず、ブレーキランプが点灯しても、それを瞬時に「危険だ」と思えるほどはっきり認識できないこともありました。また、夜間に黄色信号を赤信号だと思って停車したこともあります。

 

つまりその方にとって、赤はまったく目立って見えない色なのです。この方は、自らが色覚異常であり、特に赤い色に弱いということを理解していました。だからこそ、車の運転は常に注意深く行っていたはずです。しかしそれでもやはり、「赤が目立たない」ことで信号灯や警告灯を見間違えたり、見落とす可能性が高いことがわかります。

 

また、普段は問題なく信号を認識できている軽度の色覚異常の人であっても、信号の後ろにネオンサインが輝いていたりするなど色を識別するための環境が悪くなると、途端に信号を見誤る危険性が高くなると考えられます。その危険性を示唆しているのが、色覚異常の検査の「ランタン・テスト」の統計データです。

 

このテストは色覚異常の程度判定に使われるもので、点灯された赤・緑・黄色の色光を答える検査です。このテストの結果によると、軽度・強度にかかわらず色覚異常の人の98%はこの色光を見間違えています。

 

 先天色覚異常者の98%が、ひとつ以上は間違えます。本来なら3問まで間違えてもよいとされていますが、ひとつの間違いも誤りと考えるなら、やや注意が必要といえるでしょう。
[図表5]ランタン・テストの色光先天色覚異常者の98%が、ひとつ以上は間違えます。本来なら3問まで間違えてもよいとされていますが、ひとつの間違いも誤りと考えるなら、やや注意が必要といえるでしょう。

 

ランタン・テストは色覚異常の程度を見極める検査のため、実生活ではこれほどの正確さで色の識別が要求されることは少ないと思われますが、軽度の色覚異常であっても、色光への反応・判別は正常者より明らかに悪いといえるのです。

 

ましてや、自分が先天色覚異常であることを知らずに運転していた場合、赤色が認識しにくく、夜間にテールランプを見落として追突したり、赤信号を見過ごして交差点に進入したりする可能性がより高まります。最悪の場合は命を失ってしまうことになるかもしれません。

ハンデがあっても「交通事故は自己責任」という無配慮

交通事故は、基本的に自己責任です。先天色覚異常であることを自覚せずに事故を起こしても、責任がなくなるわけではないのです。交通事故の原因として、色覚異常を指摘する声は非常に少ないように感じます。また、それを示唆するようなデータもとられていません。人口における先天色覚異常の人の割合や加齢による色覚異常の高齢者のことを考えれば、もっと社会全体が表示や警告灯に配慮する必要があると思います。

 

たとえば、信号など色のみで判別させるのではなく、マルやバツなどの形による差をつければ、誰でも容易に見分けることができます。他にも家電品などに多用されるオン・オフ表示はほとんどがオン=薄い緑、オフ=朱色の小さなランプです。これは先天色覚異常の人のみならず、中高年以上の人にも判別しにくいものです。

 

特に、逆光になると、色光は色が区別しづらくなります。私も、旅先のホテルなどの古い家電の電源ランプは灯りが暗かったりして、遠くからでは判別できないことがあります。このように私たちの身の回りには判別しにくい表示やサインが溢れているのです。

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

 

 

 

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※本連載は市川一夫氏の著書『知られざる色覚異常の真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

知られざる色覚異常の真実 改訂版

知られざる色覚異常の真実 改訂版

市川 一夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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