「終活」という言葉が広く認知されるようになり、遺言書をはじめとした「相続対策」をする人が増えてきました。しかし、遺言書の書き方次第では、効力がなくなってしまったり、本来意図した形ではない相続がなされる場合があります。そこで本記事では、大坪正典税理士事務所の所長である大坪正典氏が、遺族が困ってしまう遺言書を紹介します。

曖昧な遺言書では相続が認められない危険がある

それから、微妙な言い回しや暖昧な表現で書かれた、意味を正確にとりにくい遺言も非常に厄介です。例えば、相続させる財産の数量について「2分の1相当分」などと指定しているような場合、2分の1ぴったりなのか、それともそれから若干オーバーしても構わないのかがはっきりしていません。

 

これでは、どのように財産を相続人に分割すればよいのか確定できません。はっきりと「2分の1」や「85%」などというように割り切れる形で明確に示すべきです。また、同様に「自宅周辺」という言い方も「周辺」という表現が不明確であり問題があります。しかも、この場合には仮に「自宅」に限定して解釈しても問題が残るケースがあるでしょう。

 

例えば、2カ所、3カ所と複数の住まいを持っている場合には、そのうちのどれが「自宅」なのかについて争いが起こる恐れがあります。不動産に関しては、「アパート」や「貸家」「別荘」なども、被相続人が複数所有している例が珍しくないです。所在地などを住所ではっきり示していればまだしも、そうでなければ、どの「アパート」「貸家」「別荘」を意味しているのかが分かりません。

 

さらに、「Dを相続させたいと思う」という言い方は、厳密にいえば、「相続させる」という確固たる意思を示しているわけではなく、相続させようと思っているだけで、まだ相続させるとは決まっていないとも解釈できます。つまり、はっきりしない微妙な表現といえます。このことは、商取引などを念頭におけば理解できるでしょう。

 

「売ろうと思う」「買おうと思う」では契約は成立しません。「売る」「買う」と断言して、初めて取引は成立するのです。

 

法的な文書は万事、曖昧な表現を嫌うのです。他の相続人への配慮などから、そうしたもってまわった言い回しをつい使ってしまうのかもしれませんが、やはり遺言書の中では、はっきりと「相続させる」という断言口調による記載が必要です。

 

「相続させたいと思う」という文言の遺言書では、銀行や法務局が、「これでは相続を認めることができない」と、結果的に預金の名義変更や不動産の相続登記手続きのトラブルにつながります。

一人だけをほめた遺言書は遺族にショックを与える

また、事業や家の後継者を大事にするあまり、特定の相続人のみに気遣いした遺言も遺族の間に波風をもたらす恐れがあるでしょう。

 

過去に目にした例では、企業を経営していた被相続人が、遺言書の中で長男について言及し、「お前は本当によくやってくれている。どうか末永く、会社の繁栄と躍進のためにこれからもがんばってほしい」と書いてあるだけで終わっているものがありました。

 

触れているのは、このように長男と会社のことだけで、他の家族には一切メッセージを残していませんでした。初めて読んだときには本当に驚きました。相続する財産の指定に関しても、「長男は自分の後継者なので、EとFを与えたい。残りの財産については、他の相続人で分けてもらいたい」となっており、ひたすら長男と会社のことだけを気にかけているような印象なのです。

 

もちろん、他の家族に対しては愛情がないというわけではないはずです。自分が築き成長させてきた会社への思いが強すぎたために、他の家族への配慮がおろそかになってしまったのかもしれません。遺族の漏らしていた「あの人は、本当に会社人間だった…」という言葉を今でも覚えています。

 

いずれにせよ、このような遺言書を残された相続人の思いは複雑でしょう。ことに、長男以外の子供たちの中には、「オヤジにとって、自分たちはどうでもよい存在だったのか」という落胆の思い、あるいは失望感を抱いた相続人もいたに違いありません。

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相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版

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大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

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相続争いは遺言書で防ぎなさい

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