こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

人と人とを区別する「境界線」は存在しない

マイノリティに属しているからこそ、提案できることがある

 

私の成長期において、男性ホルモンの濃度は80歳の男性と同じレベルでした。そのため、私の男性としての思春期は未発達な状態でした。20歳の頃、男性ホルモンの濃度を検査すると、だいたい男女の中間ぐらいであることがわかりました。このとき、自分はトランスジェンダーであることを自覚しました。

 

私は10代で男性の思春期、20代で女性の思春期を経験しましたが、今述べたように1回目の思春期のときは、完全に男性になるということはなく、喉仏もありませんでした。また、男性としての感情や思考を得ることもありませんでした。

 

20代で迎えた2度目の思春期には、完全ではないけれどもバストが発達しました。結局のところ、私は男女それぞれの思春期を2〜3年ずつ経験しているのですが、一般的な男性や女性ほど、完全に男女が分離しているわけではありません。そのため、行政院の政務委員に就任する際、性別を記入する欄には「無」と書きました。

 

オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

私は人と人とを区別する「境界線」は存在しないと考えています。これは性別についても同じです。もともと両親が「男性はこう、女性はこうあるべき」という教育を行っていなかったため、私は性別について特定の認識がありませんでした。また、12歳の頃に出合ったインターネットの世界でも、性別について名乗る必要はなく、聞かれることもありませんでした。

 

24歳になって、私は自分がトランスジェンダーであることを初めて明らかにしました。そして、25歳のときに、名前を唐宗漢から唐鳳に変えました。私の選択を両親は支持してくれ、英語名をオードリー・タンにしました。

 

実は名前を変えるとき、この「オードリー(Audrey)」という英語名を先に決めました。オードリーは男女どちらにも使えて、ニュートラルな名前であると感じたからです。そのあと、漢字の名前を考えているときに、まず「鳳」という字を選びました。

 

台湾では漢字三文字の名前が一般的なので、もうひとつ何か良い字と組み合わせてから役所に改名申請をしようと思っていたのですが、そのうち、ある日本の友人が「『鳳』という漢字は日本語で〝おおとり〞とも読むから、オードリーの日本語発音と似ているね」と教えてくれたのです。そこで私は、「だったら新しい名前は『鳳』だけにしよう」と思い、そのまま役所に「唐鳳」と申請したのです。台湾では漢字二文字の名前は少数派ですが、決して珍しくはありません。

 

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