「毎年確定申告するのが面倒くさい」「節税したいけど、どうしたらいいか分からない」……、毎年1月頃になるとこのような声をよく聞く。日本の税制は、納税者自ら確定申告をする「申告納税制度」で、申告内容の一部は納税者の選択に委ねられているのだ。申告相談に携わった元国税専門官が、節税にはどっちが得なのか、プロの税金術を公開する。本連載は小林義崇著『元国税専門官が教える! 確定申告〈所得・必要経費・控除〉得なのはどっち?』(河出書房新社) より一部を抜粋し、再編集したものです。

損失を3年間にわたって繰り越すことができる

そして、確定申告をしたほうがいいケースとしては、「1年間の売買をトータルして損失が出ている場合」です。

 

上場株などを売却して生じた損失は、翌年以後3年間にわたって損失を繰り越すことができます。この繰越しをするには、確定申告が必要です。もし確定申告をせずに放置していると、翌年以降に利益が出たとしても合算することができなくなるため要注意です。

 

最後は、「昨年以前から繰り越している株式の損失がある」ケースです。たとえば、令和元年分の確定申告で、株式売買の赤字を50万円繰り越していたとしましょう。そして、令和2年はまったく取引をしなかったとイメージしてみてください。

 

令和2年は取引がないのだから、確定申告をしなくてもいいように思われたかもしれません。しかし、令和元年分の損失を、さらに令和3年まで繰り越すためには、令和2年分の確定申告で、「令和元年分の損失を、令和3年に繰り越す」という手続きが必要になるのです。

 

少しややこしい話ですが、「株式の損失を繰り越す場合は、その損失を使い終えるまで、最長3年間は確定申告をする」ということを覚えておきましょう。

 

まとめると、株式の取引で損失が出た場合には、特定口座(源泉徴収あり)であっても確定申告をしましょう、ということです。

 

特定口座(源泉徴収あり)を確定申告するデメリットにも触れておきましょう。

 

税金のルールのなかには、「合計所得金額」を条件とする控除が存在します。代表的なものとしては、扶養控除や配偶者控除が挙げられます。

 

これらの控除は、所得が一定額以上になると使えなくなるものですが、特定口座(源泉徴収あり)の場合、確定申告をしなければ、株式等の売却益にかかる所得は、合計所得金額には含まれません。つまり、所得控除の判定を、株式等の売却益を度外視しておこなうことができるわけです。

 

ところが、確定申告をしてしまうと合計所得金額に含まれてしまうので、先に挙げたような控除が使えなくなってしまう可能性があるのです。

 

たとえば、配偶者控除の対象になっている専業主婦のほうが、株取引で多額の所得を得て、夫の所得を上回ったとしましょう。そうすると、妻が確定申告をすることによって、夫の配偶者控除がなくなり、夫の税負担が増えてしまうというケースも起こりえるのです。また、児童手当の判定にも影響するため、確定申告をする際は慎重に考えるようにしましょう。

 

本記事は「確定申告〈所得・必要経費・控除〉得なのはどっち?」(河出書房新社)の一部を抜粋し、2020年12月現在の法令等に合わせ加筆したものです。法改正などにより、内容が変更となる可能性があります。

 

 

小林 義崇
フリーライター 元国税専門官

 

 

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確定申告〈所得・必要経費・控除〉得なのはどっち? 元国税専門官が教える!

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小林 義崇

河出書房新社

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