バイデン氏の追加経済対策は想定よりも規模拡大か

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●民主党は追加経済対策に関する共和党案では規模が不十分とし財政調整措置の発動を準備。

●予算決議成立後、財政調整措置により、歳出のうち義務的経費の変更が民主党単独で可能に。

●追加経済対策の規模は弊社予想の約1兆ドルを上回る可能性も、成立まで時間的余裕はない。

民主党は追加経済対策に関する共和党案では規模が不十分とし財政調整措置の発動を準備

バイデン米大統領は大統領就任前の1月14日、新型コロナウイルスの感染拡大に対応する1.9兆ドル規模の追加経済対策、「American Rescue Plan」を公表しました。当時の報道によると、バイデン氏は追加経済対策の関連法案を議会で可決するにあたり、共和党との合意を図るとみられていました。基本的に共和党は財政拡大に慎重なため、弊社は追加経済対策の規模について、最終的には1兆ドル程度に落ち着くと考えていました。

 

バイデン氏は2月1日、追加経済対策を巡り共和党上院議員10人と会談しましたが、その際、共和党側からは、政府支出を6,180億ドル程度に抑える対案が提示されました。しかしながら、民主党は共和党案の規模では不十分とし、2月2日に上下両院で追加経済対策に関する「予算決議案」の審議を始める動議を可決し、「財政調整措置」の発動を視野に入れ始めました。

予算決議成立後、財政調整措置により、歳出のうち義務的経費の変更が民主党単独で可能に

財政調整措置とは、「財政調整法」に基づく審議手法のことです。迅速な法案成立のため、審議時間は20時間に制限され、上院での法案は全100議席中51議席の単純過半数で可決されます。そのため、民主党は財政調整措置により、単独で法案の可決が可能となります。財政調整措置には、財政調整法の成立が必要ですが、その前段階として、前述の予算決議案の審議と成立が必要になります(図表1、2)。

 

(注)上院本会議の法案審議では、フィリバスターと呼ばれる議事進行妨害が認められている。これを防ぐには上院100議席のうち60議席が必要。 (出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]財政調整法の主な特徴 (注)上院本会議の法案審議では、フィリバスターと呼ばれる議事進行妨害が認められている。これを防ぐには上院100議席のうち60議席が必要。
(出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

(注)慣例により歳出予算法案は下院先議とされているが、法案審議において両院は対等。法案は同一の法文で両院を通過しない限り、大統領のもとに送付して署名を求めることはできない。 (出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]予算決議と歳出予算法の成立までの流れ (注)慣例により歳出予算法案は下院先議とされているが、法案審議において両院は対等。法案は同一の法文で両院を通過しない限り、大統領のもとに送付して署名を求めることはできない。
(出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

なお、米国の歳出のうち、約3分の1は「裁量的経費」で、残りの約3分の2は「義務的経費」です。裁量的経費(国防費など)は、分野毎の「歳出予算法」で歳出権限が付与され、議会で毎年度の議決が必要です(米国で昨年末に成立したのは歳出予算法)。一方、義務的経費(社会保障など)は、恒久法で歳出権限が付与され、毎年度の議決は不要です。義務的経費の変更は法改正を伴いますが、ここで財政調整法を適用することができます。

追加経済対策の規模は弊社予想の約1兆ドルを上回る可能性も、成立まで時間的余裕はない

改めて追加経済対策の中身をみると、州・地方政府の財政支援など、一般に裁量的経費となるような項目も多いため、財政調整措置でも大幅な歳出拡大は難しいように思われます。ただ、裁量的経費となるようなものも形式的に義務的経費として扱う事例は過去に多くみられており、今後は、民主党がどの項目を財政調整措置の対象(すなわち義務的経費)とするかが、追加経済対策の最終的な規模を見通す上で、重要なポイントになります。

 

なお、財政調整措置を用いるには、事前に予算決議案と財政調整法案を上下両院に通す必要があり、かなりの時間を要します。バイデン氏は追加経済対策のなかで、失業給付の特例加算について、9月までの延長と週400ドルの上乗せを盛り込んでいますが、特例加算の期限は3月14日です。追加経済対策については、最終的な規模が弊社予想の1兆ドル程度を上回る可能性が出てきましたが、成立までの時間的な猶予は、あまりありません。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『バイデン氏の追加経済対策は想定よりも規模拡大か』を参照)。

 

(2021年2月4日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、総勢14名のプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場についての運用会社ならではの高度な分析を社内外に情報発信しています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、活動する機会や媒体は多岐にわたります。年間で約800本の市場レポートを作成し、会社のホームページで公開中(2019年度実績)。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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