2焦点タイプの多焦点眼内レンズが抱えていた「弱点」
これらの進歩と普及の背景には多焦点眼内レンズの性能の向上に熱意を注いだ、たくさんの研究者や技術者の存在があったことはいうまでもありません。
3焦点タイプより先に開発された2焦点タイプの多焦点眼内レンズは、前述のとおり「遠方+近方」または「遠方+中間距離」にピントが合うようにできています。単焦点眼内レンズに比べるとメガネの使用頻度は格段に減りますが、「遠方+近方」は中間距離の視力、「遠方+中間距離」は近方の視力がどうしても出にくいのが弱点です。視力が出ない場合、メガネをかけて視力を補う必要があります。
[図表]は、2焦点眼内レンズ使用の白内障手術(水晶体再建術)を日本全国で受けた患者さんへのアンケートの結果です。眼科の学術雑誌『AMERICAN JOURNAL OF OPHTHALMOLOGY 2019』に掲載されたもので、両眼を手術した412人から回答を得ています。
これを要約すると、術後のメガネへの依存度は「まったく必要ない」が56.5%、「いつも必要」が3.1%、その中間である「ほとんど必要ない」と「ときどき必要」が計39.9%となります。「ほとんど必要ない」「ときどき必要」と答えた人は、前出のような視力が出ない距離のものを見るときにメガネを使用していると考えられます。
半数以上の人はメガネをまったく使わない裸眼生活が実現できたわけですから、2焦点タイプの多焦点眼内レンズもかなりの程度まで「老眼治療の効果を挙げられる」といえます。しかし、この確率では老眼治療に用いることはできません。白内障治療を主目的とした手術で「老眼も治療できた」というのと、老眼治療を主目的に行う手術とでは求められる確実性の度合いには差があります。