●先週の米株などの調整は、ヘッジファンドの空売りを狙った米個人投資家の投機的な取引に起因。
●市場の混乱を受けSECは米ネット証券の取引停止や個人投資家の行動の調査に乗り出す模様。
●ただ日本株への影響は限定的とみられ、先週のような調整は好決算銘柄を物色するタイミングに。
先週の米株などの調整は、ヘッジファンドの空売りを狙った米個人投資家の投機的な取引に起因
先週の米国株式市場は、一時大きく調整する場面がみられました。ダウ工業株30種平均の1週間の下げ幅は1,000ドルを超え、1月29日は節目の30,000ドルを割り込んで取引を終えました。日本株もこの動きに連れて調整色が強まり、日経平均株価については、先週1週間の下げ幅が970円近くに達し、1月29日は節目の28,000円を割り込んで取引を終えています(図表1)。
この背景には、米個人投資家の投機的な動きがあると指摘されています。このところ米国では、ヘッジファンドの空売り銘柄に対し、個人投資家がSNS(交流サイト)で情報交換をしながら一斉に買いに動き、その結果、ヘッジファンドが買い戻しを余儀なくされ、空売り銘柄が急騰する現象がみられました。そして、ヘッジファンドが損失補填のため主力株に換金売りを出すとの思惑が強まり、広く米国株や日本株の下落につながったと推測されます。
市場の混乱を受けSECは米ネット証券の取引停止や個人投資家の行動の調査に乗り出す模様
個人投資家は、米ネット証券のロビンフッドなどを利用するデイトレーダーとみられますが、その投機的な動きは株式市場に大きな波紋を広げています。先週は米ゲームストップ株に個人投資家の買いが殺到し、ロビンフッドは預託金積み増しのため、ゲームストップを含む一部銘柄の取引を一時停止する事態に追い込まれました。また、米ヘッジファンドのシトロン・リサーチは、長年続けてきた空売り対象の調査を中止すると発表しました。
このような事態を受け、米証券取引委員会(SEC)は1月29日、特定銘柄の取引を不当に阻害する可能性のある行為を調査し、不正行為を注意深く監視していくことを明らかにしました。調査対象には、ロビンフッドの取引停止や、投稿型のオンライン掲示板「レディット」の「ウォールストリートベッツ(賭け)」などで投資を呼びかける個人投資家の行動も含まれると思われます。
ただ日本株への影響は限定的とみられ、先週のような調整は好決算銘柄を物色するタイミングに
今回のような米個人投資家に起因する株安が日本株に与える影響は限定的とみています。そもそも、米個人投資家の空売りを狙い撃ちした取引は、直接的に日本経済や日本企業の業績見通しに影響を与えるものではなく、また、銀行の決済機能など金融システムにダメージを与えるものではありません。先週の日本株調整の主因は、損失を抱えたヘッジファンドの換金売りが日本市場にも及ぶのではないかという「思惑」とみられます。
仮に、換金売りがあったとしても、一般に換金売りが長期にわたって株式市場全体を押し下げ続けることは、あまり考えられません。日経平均株価は長期上昇トレンドを維持しており(図表2)、先週のような調整は、決算シーズンを迎えている現在、好決算銘柄を物色するタイミングとなりえます。実際、日経平均株価は本日の前場で、28,300円台を回復しています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米個人投資家VSヘッジファンド~日本株への影響は限定的』を参照)。
(2021年2月2日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト