未だ収束が見えない新型コロナウイルス。感染者や死亡者が日々増加しているのは、日本もアメリカも同様だ。しかしアメリカでは個々人が熱心に情報収集を行っていて、その意欲に応えられるだけの最新かつ信頼性の高い情報が日々更新されている。とはいえ「自由の国」ならではの試練もあるという。ボストン在住の大西睦子医師に実際の様子を伺った。

嘘と本当が錯綜する米国の「コロナ情報」

米国では、新型コロナウイルスの第2波により、感染者や死亡者が増え続けています。こうした状況は、日本でもニュースになっているでしょう。そんななか、先日、日本の知人から「ニューヨーク州やマサチューセッツ州、カルフォルニア州の集中治療室(ICU)の状況はどう?」という質問がありました。

 

米国では、新型コロナウイルスに関する「真実と嘘の情報」があふれています。今回はそのようななかで、いかに正しい情報を見つけるかということをお話しします。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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各メディアや「検索フォーム」…情報のアクセスは簡単

米国の新型コロナウイルスの最新情報を集めるには、何といってもメディアを利用するのが便利です。多くの米主流メディアは、連邦、州や地方政府などのデータをまとめて、定期的に情報をアップデートしています。しかも、読者にわかりやすく伝えられるようにデザインされています。

 

たとえばニューヨークタイムズは、世界各国の感染者数、死亡者数、米国内の州ごとの感染やワクチンの開発・接種状況、各病院のICUの状況、各大学の感染者数、さらに各介護施設の感染者数と死亡者数などを公表しています。

 

ボストンにある病院のICUの状況を知りたければ、「Boston」と入力します。すると、近辺の病院の状況が示され、たとえばマサチューセッツ総合病院であれば、現在はICUに89人の新型コロナウイルスの患者さんが入院していて、空いているベッドは17台、病床の利用率は87%。こんなふうにわかります。

 

ただ、今回たずねられた「ニューヨーク州、マサチューセッツ州やカルフォルニア州の集中治療室(ICU)の状況はどう?」という質問には、もっとシンプルなデータを紹介したいと思いました。

 

そこで「Google」で、「national data of COVID-19 ICU」「COVID-19 ICU capacity used by state」などキーワードを入れて検索しました。すると、さまざまな組織による追跡データが出てきます。

 

そのなかで、信頼性の高い政府やアカデミアのデータがまとめてあるサイトを選びます。今回、質問者には「Covid Act Now」(※1)という、2020年3月に設立された非営利団体のデータを紹介しました。ジョージタウン大学、スタンフォード大学やハーバード大学も一緒に調査しており、米国保健社会福祉省、州および郡の公式データなどを参考にしています。また、このサイトには、各州のICUベッドの利用率だけでなく、ベッド数も示されています。

 

たとえばニューヨーク州を選ぶと、現在ICUの利用率が69%という情報とともに、新しい波は乗り切れる可能性が高い、という予想まで出てきます。さらに、ニューヨーク州は合計5,603台のICUベッドを持っており、そのうち1,535床はCOVID患者が利用し、のこり2,344床はそれ以外の患者が利用しています。

 

※1 https://covidactnow.org/?s=1559499

「政府発の情報」が信頼できない危機的状況

このように、今では最新かつ詳細な情報にアクセスできるようになった米国ですが、実は新型コロナウイルスが流行しはじめた頃は、うまく情報収集することができませんでした。

 

2020年2月28日、ハーバード大学で、新型コロナウイルスのカンファレンスが開催され、専門家らが「中国の感染状況」を発表しました。翌日、米疾病予防管理センター(CDC)により、米国で最初の死亡者が報告されました。

 

米国では、未知のウイルスについて関心が高まっており、会場は超満員でした。

 

演者の一人が、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行における中国の失敗は、「(1)科学的な失敗」「(2)コミュニケーションの失敗(病院と政府の間)」「(3)リスクコミュニケーションの失敗(政府から国民への警告)」であったことを指摘しました。新型コロナウイルスは、(1)の科学的な状況は飛躍的に改善し、新型コロナウイルスのゲノムシークエンスの速やかな公開や多数の論文を報告しているが、依然として(2)と(3)に問題があることを批判しました。

 

また別の演者は、当時、中国では約3,000人が新型コロナウイルスで死亡しましたが(※2)、コロナに限らず毎日約5,000人もの人が虚血性心疾患で死亡している(ちなみに世界経済フォーラムのデータによると、中国は人口が多いこともあり、1日あたり約2万8,000人も死亡しているとのこと)ことを指摘し、新型コロナウイルスに対してどうアクションを起こすべきかと疑問を投げかけました。

 

私自身、まったく楽観的には感じられませんでした。実際、米政府の新型コロナウイルスの初期管理に対する深刻な問題が浮き彫りになっていました。

 

演者の一人は、「数日前に、ホワイトハウスが、新型コロナウイルスの対応のために25億ドルの緊急資金を要求しましたが、これは中国でウイルスが発表された翌日にするべきだった。それに、そもそも25億ドルでは少なすぎる」と批判しました。

 

トランプ政権だった当時、政府からの情報は非常に限られており、米国でも「(2)コミュニケーションの失敗(病院と政府の間)」と「(3)リスクコミュニケーションの失敗(政府から国民への警告)」に問題があったのです。そんなトランプ政権(当時)に対して、多くのメディアが戦いに挑みました。

 

※2 https://www.weforum.org/agenda/2020/05/how-many-people-die-each-day-covid-19-coronavirus/

「報道の自由」をめぐり当時のトランプ政権を痛烈批判

フリーダムハウスは、米国を拠点とし、米政府が資金提供する非営利組織(NGO)です。1941年にファシズムに対抗して、自由、民主主義と人権に関する研究と擁護を行っています。フリーダムハウスの「報道の自由」の調査によると、2019年は、5段階の自由度(スコア4=最も自由、スコア0=最も自由がない)で、最も自由な国は、欧米諸国が多く、日本はスコア3、中国やロシアはスコア0でした。

 

フリーダムハウスは、メディアの自由は過去10年間、世界中で悪化しており、この傾向は、かつては自由の砦であったヨーロッパと、独裁政権の集中するユーラシアおよび中東において最も深刻であると指摘しています(※3)。また、中国政府は、民間のテクノロジー企業に対して、プラットフォーム上の内容をより積極的に取り締まるよう圧力をかけ、検閲されていない情報にアクセスするための最後の手段を打ち切るよう努めてきました。

 

さらに最も懸念されることは、世界をリードする民主主義国の米国で、報道の自由が、異常な圧力にさらされていることです。主流な報道機関は、積極的に活発な報道を続けていますが、トランプ大統領(当時)の報道機関に対する中傷は、主流メディアに対する国民の信頼を悪化させます。

 

それでも、多くの主流メディアは、真実に基づく報道を流し続けました。さらに、科学者や医師も立ち上がりました。

 

たとえば、世界で最も長い歴史を誇る医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NELM)」。その208年の歴史を通して無党派を貫いてきましたが、2020年10月の社説で、トランプ政権(当時)の新型コロナウイルスのパンデミックの対応がひどく不十分であることを指して、「危機を悲劇に変えた」、「政権は、専門知識に頼る代わりに、真実を曖昧にしてあからさまな嘘の普及を促す無知な『オピニオン・リーダー』と詐欺師たちに目を向けた。政治指導者たちは、専門家を無視し、さらに侮辱した」(※4)と痛烈な批判を行いました。

 

フリーダムハウスは、「正直で真実に基づくジャーナリズムへのアクセスを含む、民主的な自由への願望は、決して消滅することはできません」と述べます。実際、トランプ大統領(当時)は先日の選挙で敗北しました。

 

※3 https://freedomhouse.org/report/freedom-and-media/2019/media-freedom-downward-spiral

※4 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe2029812

表現の自由とフェイクが併存するソーシャルメディア

トランプ政権(当時)との戦いはメディア側の勝利に終わりました。とはいえ、この「真実の情報」をめぐる問題が解消されたわけではありません。米社会は「ソーシャルメディア」をめぐる大きな問題も抱えているのです。

 

米国では、コモンローの原則のもと、本や新聞などの「出版社」は、出版物のすべての表示に責任を問われる可能性があります(※5)。出版社は、出版物の内容を編集管理する知識、機会、能力をもつという理論に基づきます。

 

一方、書店、図書館などの「販売/流通業者(Distributor)」の責任は、はるかに限定されています。販売/流通業者が、配布する前にすべての出版物を読むことは不可能であり、名誉毀損であるかどうかを知ることは非常に難しいためです。

 

米国には1996年に制定された「通信品位法230条(セクション230)」により、FacebookやTwitter、Googleなどのプラットフォームは、「出版社」ではなく、サイトのコンテンツの単なる「販売/流通業者」とみなされています。つまり、インターネット企業は、ユーザーの発言に法的責任はありません。このセクション230により表現の自由が守られるものの、嘘(フェイクニュース)も自由に広がるのです。

 

ソーシャルメディアは「発言者が何に興味を示し、何を主張しているのか」を知るには便利ですが、真実と嘘の情報があふれていることに注意すべきなのです。

 

プラスの要素がマイナスにも働きうるというのは、情報収集に限りません。たとえばソーシャルメディアを通じて、自然災害や新型コロナウイルスなどによる犠牲者の資金援助、「Me Too movement」や「Black Lives Matter」などのイベントを組織することができます。しかしその一方で、先日、連邦議会議事堂を襲撃した白人至上主義の極右団体「プラウド・ボーイズ」もソーシャルメディアを通じて組織されたものですし、性的人身売買にも利用されることもあります。今後、健全な民主主義を維持するために、セクション230を変更するべきでしょう。

 

※5 https://www.dmlp.org/legal-guide/immunity-online-publishers-under-communications-decency-act

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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