ディープラーニングは睡眠学習に似ている
これは睡眠学習に似ているかもしれません。私は睡眠の質あるいは時間を重視していますが、眠っている間も脳に作業をしてもらっています。
それはこういうことです。私は寝る前に、仕事に必要な資料をすべて読み込みます。ただ、読み込むだけで何も判断しません。頭で判断しようとすると眠れなくなってしまうからです。まずは情報のインプットだけを行い、インプットが終わると、「明日起きたらこの問題の回答を得なければならない」と思って眠りにつきます。すると、翌朝目が覚めたら頭の中に回答ができあがっています。眠っている間に脳がどのように働いたのか、私にはその仕組みはわかりません。
一つ具体的な例を挙げてみましょう。あるとき、外交部(日本でいえば外務省)、衛生福利部などに関連する研究機関から私のところへ、台湾における新型コロナウイルスの防疫の取り組みについて海外へシェアしてほしいという依頼が寄せられました。紙にすると100ページ以上にも及ぶほどの情報量です。しかし、私に与えられた課題は、台湾を知らない海外の人たちに、5分という短時間で新型コロナ対策の台湾モデルを明快に伝え、理解してもらうようにしたいというものでした。
これは私にとって難題でした。情報量が膨大なため、1時間もらえればわかりやすく説明することはできますが、5分ではどう話すべきかがわかりません。そこで私は、寝る前にこれらの資料を読んで、全部頭の中に入れておいたのです。すると、目覚めたとき、私の頭には3のキーワードが浮かびました。それは「Fast(素早く)」「Fair(公平に)」「Fun(楽しく)」でした。結果、これらのキーワードを軸にして、いくつかの事例を挙げることで、台湾モデルと他国との違いを十分に説明することができたのです。
もう一つ別の例を挙げれば、「Humor over Rumor(ユーモアは噂を超える)」というユーモアによってフェイクニュースを晴らすためのアイデアも、同じような方法で思いついたものです。トイレットペーパーの買い占めが起きそうになったとき、行政院長が「誰でもお尻は一つしかない(だから安心してください)」というキャッチフレーズで騒動を収めたのですが、それもこの「Humor over Rumor」というアイデアに基づくものでした。
私は「Humor over Rumor」の手法で、「トイレットペーパー不足は起こらない」ということを人々の頭に刻み込んでもらうだけでなく、彼らの過去の経験と結びつけて考えてもらうきっかけにしたのです。ただし、海外の人たちに台湾のコロナ対策について説明する場合、いきなり「トイレットペーパー不足という噂が流れ始めて」などと言っても、彼らはなんのことだか理解できないでしょう。そこで「Humor over Rumor」のように韻を踏んだ、誰にでも簡単に理解してもらえるような内容を「Fast」「Fair」「Fun」という3つのキーワードで表したわけです。
これらの言葉がどのようにして頭に浮かんできたのかは、私にもわかりません。夢の中で何かを判断したり、アイデアを出したりするといっても、目が覚めたらその結果だけしか残っていないのです。確かに「Fast」「Fair」「Fun」というキャッチフレーズを私は作り出しましたが、夢の中でどのようにしてこの3つの「ラベル」に到達したのか、あれほどの情報量の中からどうやって抜き出したのかということについては、私自身も説明できません。
「夢を見て2時間経過したときに、こんなアイデアが出てきました」なんてことは言えないのです。というのも、私たちは夢の中では、起きているときに運用する概念とはまったく異なる概念で動いているからです。だからこそ、今説明したような状態が生じるのです。
オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
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