こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

本当にAIの能力が人間の能力を上回るのか

AIは人類がどういう方向に進みたいのかを問いかけている

 

AIに関しては、「2045年にシンギュラリティ(Technological Singularity、技術的特異点)が到来し、AIの能力が人間の能力を上回る」という説が唱えられています。

 

ここで「シンギュラリティ」と呼ばれているものは、そもそも私たち人間がAIというものを開発しようとしたために生まれてきた考え方に他なりません。

 

以前も、「世界終末時計」とか「核戦争までのカウントダウン」というものがありました。「あと何年で核戦争が起こり、地球が滅びる」「地球は残っても人類の文明は滅びる」、さらには「気温が上昇すれば、今のような人類の文明は存在しなくなるし、生き続けるにはかなりの変化が必要だ」などと推測をする人たちもいました。

 

オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

しかし、仮にそうなったとしても、おそらくそこで地球そのものがなくなることはないでしょう。核戦争や気候変動は、私たち人間の文明という、この一つの層を破壊するだけにすぎないからです。

 

こうした核戦争や気候変動と同じように、2045年のシンギュラリティに向けてのシナリオに言及するのは、「私たち人類はいずれ滅んでしまうから、明日のことは何もやらなくていい」などと言うことが目的ではないでしょう。重要なのは、放射能の拡散を防ぐために、あるいは二酸化炭素の排出量を減らすために、AIが存在する今の状況で、「いかにしてAIを活用するか」ということでしょう。

 

AIに人間の補佐をさせて、次世代によりよい環境を残す方策を考えることが大切なのです。つまり、AIは「人間をどの方向へ連れていくか」をコントロールするものではなく、「私たちがどの方向へ行きたいのか」をリマインド(再確認)するための存在なのです。

 

もちろん、「核戦争まであと何年」などといった警告がまったく意味をなさないとは思いません。現時点で核戦争は勃発していませんが、核兵器が実際に使われた過去の経験を人類は持っています。広島と長崎で使われた原子爆弾は、人々が目を覆いたくなるような惨状を生み出しました。広島にある平和記念資料館が常に世界に対して「二度と核兵器が使われてはならない」と訴え続けていることを私は知っています。

 

また、時には人間の故意ではなく、大震災などの天災によって原発が破損し放射能汚染が起きるというようなことがあり得るのです。もともと私たち人間は、核をコントロールできた場合の効用を知っています。ところが、放射能汚染を目の当たりにすると、核が人智を超えた結果をもたらし得ることをまざまざと実感するのです。こうした経験をもとに、私たちは謙虚、謙遜ということを学ぶのだと思います。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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