急拡大する新型コロナウイルス。政府は首都圏の1都3県に続き、関西3府県にも緊急事態宣言を出す方針だ。新規感染者の増加ペースは衰えることなく、2月5日までには約28万人に上るという予測まででている。現時点で医療崩壊の危機が叫ばれている日本の医療体制はどうなるのか。脱却する術はあるのだろうか? 現役医師の上昌広氏が、最新の研究にもとづき報道からは見えない実態を緊急レポートする。

問題は人手不足でなく…迫る「医療崩壊」の根本原因

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大が止まらない。1月8日、菅義偉首相は、首都圏の4都県に緊急事態宣言を発した。関西圏の知事からも要望がでており、対象地域は拡大しそうだ。

 

コロナ感染者が増加し、日本の医療は崩壊の危機にある。メディアは連日、このように報じている。1月4日には、黒岩祐治神奈川県知事は、コロナ病床を確保するため、不急の手術や入院を1ヵ月程度延期して欲しいと医療機関に要請した。すでにコロナ診療以外にも影響がでている。一体、どうなっているのだろうか。

 

実は、これは厚労省の対応が悪いだけで、やり方次第で、日本の医療にはまだまだ余力がある。本稿では、コロナの診療体制、特に重症患者対策について論じたい。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

欧米は「医師少数・感染者多数」でも医療崩壊なし

まずは、図表1をご覧いただきたい。東アジアおよび欧米の人口当たりのコロナ感染者数、死者数、医師数、病床数を示している。

 

出展:WHO(医師数)、Our World in Data、OECD(急性期病床数) 医療ガバナンス研究所 山下えりか
[図表1]【COVID-19】G7と東アジアにおける感染状況と病床数・医師数(2020年12月26日現在) 出典:WHO(医師数)、Our World in Data、OECD(急性期病床数)
医療ガバナンス研究所 山下えりか

 

欧米と比較して、日本は感染者も重症患者も少ないことがわかる。12月26日現在、人口1,000人あたりの感染者数は1.7人だ。米国の33分の1、フランスの24分の1,英国の19分の1、ドイツの11分の1だ。

 

医師数は米国の96%、フランスの76%、英国の89%、ドイツの59%だが、急性期病床数は米国の3.2倍、フランスの2.5倍、ドイツの1.3倍もある(英国は不明)。欧米諸国が、それなりに対応しているのに、どうして日本の医療が崩壊してしまうのだろう。

 

それは、日本では重症者を集中的に診る病院がないからだ。1月10日現在、都内の病院に入院している重症患者は128人だ。東京都は重症者用ベッドとして220床を確保しており、250床まで増やすように医療機関に要請中だ。

重症患者を方々に分散入院させた「日本の失策」

では、どのような病院が重症患者を受け入れているのだろうか。厚労省が「特定感染症指定医療機関」に認定している国立国際医療研究センター病院や、「第一種感染症指定医療機関」に認定している都立駒込病院、都立墨東病院などは、しばしばメディアで取り上げられている。実は、都内では、約380の施設が重症患者を受けることができる。このうち360施設の受入数は4人以下だ。10人以上受け入れることができるのは4施設に過ぎない。日本では、コロナ重症者が、多くの病院に分かれて入院している。

 

世界中で、このような対応をしている国は少ない。中国の武漢を第一波が襲ったとき、中国政府はコロナ治療施設を臨時に建設した。2月はじめまでに3施設が建設され、軽症から中等症の患者4,000人を受け入れ、その後、数週間でさらに13施設が建設され、病床は1万2000床追加された。感染者は自宅隔離とせず、仮設病院で隔離し、家庭内感染を防いだ。このような施設で働いたのは、武漢以外から動員された職員だった。

 

一方、重症患者は大学病院など基幹施設が引き受け、コロナ診療以外の一般診療体制も維持された。コロナ重症患者診療には、多くの専門家とインフラが必要になる。武漢の基幹病院に勤務する医師・看護師たちを、重症患者の治療に専念させたことになる。つまり、医療資源を重症患者の診療に集中させた。

日本にも「重症患者を一手に引き受ける施設」が必要

このような「選択と集中」戦略を採ったのは、中国だけではない。図表2は、第一波のある時点での米国のマサチューセッツ州における主要病院のコロナ感染者の受入数を示している。トップのマサチューセッツ総合病院は278人で、このうち121人は集中治療室での治療が必要な重症患者だった。

 

出典:The Boston Globe
[図表2]マサチューセッツ州の病院別コロナウイルス症例リスト(2020年4月13日) 出典:The Boston Globe

 

マサチューセッツ総合病院は、ハーバード大学の関連施設で、世界でもっとも有名な病院の一つだ。ハーバード大学には附属病院がないため、この病院が実質的にその役割を担っている。病床数は約1000床で、日本の大病院と同規模だが、コロナが流行すると、重症患者を一手に引き受けた。受け入れた患者数は、現在の都内の重症患者数の総数よりも多い。

 

このような状況は米国だけに限らない。スウェーデンのカロリンスカ大学病院に勤務する宮川絢子医師は「第二波真っ只中のスウェーデンから現地日本人医師による実態証言」(https://forbesjapan.com/articles/detail/39109?utm_source=owned&utm_medium=referral&utm_campaign=mailmagazine_0107_2796&utm_content=art1)の中で、以下のように述べている。

 

「第一波では、スウェーデンで最も被害の大きかったストックホルムにおける感染者の入院治療の40%を担い、ピーク時には500名近い感染者の入院患者を抱えた。病院のベッド数は約1600床であるから、ベッド数の3分の1近くが感染者であった。そのうち、ICU入院患者は約150名。ICUベッドを通常時の40床から増床し、最大200床程度までにキャパシテイーを拡大した。」

 

カロリンスカ大学病院は、カロリンスカ医科大学と提携するスウェーデンを代表する医療機関だ。ちなみに、カロリンスカ医科大学にはノーベル生理学・医学賞の選考委員会があり、2020年のQS世界大学ランキングで、医学系で世界5位だ。

 

コロナ重症患者対策という点では、米国もスウェーデンも同じだ。国を代表する医療機関が一手に重症患者を引き受けている。このような状況を知れば、日本の医療が欧米の何十分の一の重症患者で崩壊してしまうのもご理解いただけるだろう。

 

重症患者を適切に治療するには、中核施設を認定して、集中的に資源を投下するしかない。東京なら東京大学医学部附属病院が患者を引き受けたらいいだろう。同病院には約1000人の医師が勤務し、インフラも整っている。

 

ただ、これは現在の厚労省の施策と正反対だ。厚労省は二次医療圏毎に少数の感染症病棟を整備してきた。これが戦力の分散を招き、今回のコロナ流行では医療崩壊を招いた。そろそろ、現状に合わせて方向転換する時期である。

 

 

上 昌広

内科医/医療ガバナンス研究所理事長

 

 

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