昨年12月より世界各地で始まった、新型コロナウイルスのワクチン接種。日本では2月下旬より、医療従事者等から接種開始の予定だ。通常、ワクチンの開発から実用化までには10年以上かかることも珍しくない。そんななか驚異のスピードで登場したコロナワクチンだが、果たして安全性や有効性はどうなのか? 現役医師の上昌広氏が、最新の研究にもとづき報道からは見えない実態を緊急レポートする。

「接種後の副反応」はワクチンに付きものだが…

1月15日、新型コロナウイルス(以下、コロナ)ワクチンの安全性に関する衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。ノルウェーでコロナワクチンを接種した高齢者23人が死亡したというのだ。接種したのは米ファイザー・独ビオンテックのワクチンで、ノルウェー医学庁によると、死者13人は剖検されており、ワクチン接種との関連が示唆されるという。

 

米国でも、50代の男性医師が、接種後に重度の皮下出血を起こし、16日後に死亡している。さらに米国でファイザー・ビオンテック製のワクチン接種を受けた約190万人のうち、21例が重度のアレルギー反応を発症していることがわかった。ワクチン接種に付きものの副反応だが、その頻度は従来のワクチンでは100万回の接種に1回程度とされている。コロナワクチンでは多いのかもしれない。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

現状、コロナワクチンの有効性は「想定以上」

12月に入り、世界各国でコロナワクチンの接種が始まった【図表】。トップを走るのはイスラエルで、1月15日現在、人口の25.3%が1回目の接種を終え、1月10日からは2回目の接種が始まった。イスラエルでは、初回接種から2週間を超えた人でのコロナ感染の減少が確認されているという。

 

【図表】

 

昨年11月に中間解析結果が報告されたファイザー・ビオンテックのワクチンは90%、米モデルナは94%、英アストラゼネカは70%の有効性が報告されているが、イスラエルの経験は、このような臨床試験の結果と合致する。確かに、コロナワクチンは有効そうだ。臨床開発が始まった当初、米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)はワクチンの有効性の基準として50%を想定していたのだから、彼らの予想を大きく上回ったことになる。

 

もちろん、このような臨床試験は、まだ観察期間が短く、効果がいつまで持続するかわからない。また、長期的な合併症についても明らかではない。ただ、現時点のデータだけからも、短期的な有効性は極めて高い一方、副作用はそれなりに強いと考えてよさそうだ。我々は、このワクチンとどう付き合えばいいのだろう。

 

世界はコロナワクチンとの付き合い方を巡り試行錯誤を繰り返している。世界の多くの国が医療従事者から接種を始めているが、次に接種するのは、日本のように高齢者や持病を有する人とは限らない。インドネシアでは高齢者より現役世代を優先する。これはインドネシア政府が感染抑制のために、活動が活発な現役世代の感染抑制を優先することに加え、高齢者での安全性が確立していないことを重視したからだ。

「従来のワクチン」にはない、コロナワクチンの特徴

とにかく、コロナワクチンについては、わからないことだらけだ。それは、コロナワクチンが遺伝子工学技術を活用した新しいワクチンだからだ。従来のワクチンの多くは、ウイルスを鶏卵や細胞などで培養し、不活化や弱毒化したものを接種していた。つまり、ウイルスの病原体成分を満遍なく投与していた。

 

コロナワクチンは違う。ファイザー・ビオンテックとモデルナのワクチンはmRNAワクチンだ。コロナの遺伝子の一部、具体的にはスパイクたんぱく質をコードする部分を注射して、体内で発現させる。免疫を誘導しそうなたんぱく質に絞って、体内で大量に発現させる。

 

mRNAワクチンの問題は、体内で不安定なことだ。ファイザー・ビオンテックとモデルナは、mRNAを脂質ナノ粒子にくるむことで、この問題を解決した。

 

一方、アストラゼネカはウイルスベクター(運び手)として、ヒトに対しては弱毒性のチンパンジーの風邪ウイルス(アデノウイルス)を利用している。このウイルスが接種された人の細胞に感染すると、細胞内で導入された遺伝子がスパイクたんぱく質を産生する。あとはmRNAワクチンと同じだ。

 

mRNAワクチンは、コロナワクチンが初めての臨床応用だし、ウイルスベクターワクチンはエボラウイルスワクチンでの活用など、ごくわずかの臨床経験しかない。これらのワクチンは、mRNAやウイルスベクター以外に、脂質ナノ粒子などの添加物を用いている。このような物質が、体内でどのような反応を起こすかわからない。

 

実は、当初から、強い炎症反応が起こることが危惧されていた。米科学誌『サイエンス』は11月18日号で、ファイザー・ビオンテックおよびモデルナのワクチンの接種には、強い痛みと発熱を伴うことを紹介する記事を掲載している。

 

モデルナのワクチンの臨床試験に参加した43才の人物は、接種部位が「ガチョウの卵」のサイズまで腫脹し、38.9度の発熱があり、筋肉と骨が激しく痛んだと言う。この人物は、「一晩中電話の前に座り、救急車を呼ぶべきか迷った」そうだ。この症状は12時間続いたという。このような炎症反応が高齢者に起これば、冒頭にご紹介したような死亡例が出るのもご理解頂けるだろう。

 

ただ、遺伝子工学技術を応用したワクチンは、強い副反応を伴うものの、コロナ制圧に大きな貢献をしそうだ。それは、このようなワクチンは、コロナのゲノム配列さえ分かれば設計は容易で、手間のかかるウイルス培養を必要としないため、安価に大量生産できるからだ。2021年中にファイザー・ビオンテックは13億回分、モデルナは5~10億回分、アストラゼネカは20億回分を供給できると発表した。コロナワクチンは通常2回接種を要するため、この4社で最大30億人分のワクチンが提供可能だ。こんなことは従来の製造法では考えられない。

コロナワクチンは「いつ」「誰から」接種するべきか

日本政府はファイザーから1億2,000万回分、モデルナから5,000万回分、アストラゼネカから1億2,000万回分の供給を受けることで合意している。全国民のワクチンが確保できたことになる。国民の7割程度に接種できれば、集団免疫を獲得し、コロナの流行は止むはずだ。

 

ワクチン研究は日進月歩だ。遠くない将来、副反応は軽減され、安全性が高いコロナワクチンが開発されるだろう。ただ、現状では、我々は、このワクチンとどう付き合うか考えなければならない。

 

まずは私の場合だ。もちろん接種する。それは私が臨床医だからだ。日常的に持病を有する高齢者と接する。彼らはコロナに感染した場合、重症化するリスクが高い。どんな形であれ、患者にうつすのは避けたい。一定レベルの安全性と有効性が担保されていると判断すれば、職業倫理的にも打たなければならない。このような状況は、介護職、営業職、接客業、教育関係者にも共通する。

 

では、患者はどうだろうか。70才で高血圧・糖尿病の男性から相談を受けたとしよう。このような患者はコロナに感染した場合、重症化しやすい。ただ、私は現状では、この男性にワクチン接種をすすめない。それは、持病を有する高齢者は、健康な若年者ほどワクチンの効果が期待できない一方、前述したように副反応が出たときには重症化しやすいからだ。

 

一般論として、高齢で持病を有する患者の行動範囲は広くない。接触する人も限られており、感染リスクは低い。急いでワクチンを接種する必要はない。先行してワクチン接種を始めた海外のデータがまとまるまで待てばいい。夏になれば、相当数の経験が海外で蓄積されているはずだ。

 

もちろん、筆者も高齢者において、ワクチンの危険性が極めて高いと考えているわけではない。おそらく相当程度に安全だろう。ただ、繰り返すが、コロナワクチンに関しては、あまりにもわからないことが多い。

 

各国政府がワクチンを推奨するのは、国民の健康だけを考えてのことではない。コロナが大流行し、経済ダメージが甚大な世界各国は、公衆衛生学的、経済的見地から、ワクチンを推奨しているのだ。特に後者は大きい。ワクチンによりコロナ感染が予防されるだけでなく、国民が安心し、景気が上向くからだ。

 

この理屈は一人一人の国民には通用しない。それぞれの事情に応じた個別具体的な対応が必要だ。私はかかり付けの主治医に相談することをおすすめしたい。個別の事情を把握し、それぞれに合った助言をしてくれるからだ。幸いオンライン診療も解禁された。遠慮せず、連絡すればどうだろう。

 

 

上 昌広

内科医/医療ガバナンス研究所理事長

 

 

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