相続発生時に遺産を巡って親族が争う「争続」という言葉は、すでに周知されているのではないでしょうか。しかし、相続バトルは相続が発生してから生じるものではなく、発生が予想される段階から、水面下ですでに繰り広げられているのです。本記事では、相続問題を幅広く扱う山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が「相続バトルの種」とその除去方法について、事例をもとに解説します。

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相続対策完了後に「最新の遺言書」が…

年老いた父親が亡くなり、長男が遺言書にしたがって相続手続を進めていたところ、長女と次女から突如、別の遺言書が送られてきた――。弁護士をしていると、この手の相続トラブルに遭遇することがよくあります。

 

きょうだい仲はあまりよくなく、連絡を取り合うこともまれ。それなのに、遺言書作成といった相続対策をしていない。そして、いざ相続となったときに、財産の分け方で揉める…というのが、一般的にありがちな相続トラブルですが、このケースでは、遺言書を作成のほか、税金などの相続対策も行っていたにもかかわらず、2つ目の遺言書が現れたことで、予期していなかった「争続」が始まってしまいました。

新しい遺言書が作成されたのは、父が死亡する1ヵ月前

そもそも遺言書とは、被相続人という亡くなる方の意思を尊重して、死亡後にも自分の財産の分け方を決めておけるという書類です。被相続人の方の意思がしっかりとしていれば、本来、遺言書は2つ存在することはないはずです。

 

とはいえ、たとえば、70歳のときには長男にすべての財産を残したいと思っていた。しかしその後、長男と大喧嘩してしまい、80歳のときに新しい遺言書を作り直す、といったことは珍しくありません。

 

遺言書を作り直せば、80歳のときの新しい遺言書のほうが被相続人の意思を反映しているといえますから、新しい遺言書が優先して適用されます。

 

今回も同じように、数年前に作成した遺言書と、その後に作成した遺言書の2つの遺言書が現れたのでした。

 

ただ今回のケースで注目すべき点は、新しい遺言書が、父親が亡くなる1ヵ月前に作成されていたというところです。死亡時は90歳を超える高齢で、重度の介護を必要としており、判断能力も曖昧な状態でした。そのため、新しい遺言書を作成するときに父親が判断能力を有していたのかどうか、2つの遺言書のどちらが効力をもつかで争うことになったのです。

 

数年前に作成されていた遺言書は、不動産関係の遺産をすべて長男に相続させるという内容になっていました。父親が長男と実家で同居していたこと、長女と次女は結婚して家を出ていたこともあり、長男にはすべての不動産を相続させたいという意向があったようです。もっとも、不動産は実家だけではなく、築古・築浅が混在する3棟ほどの賃貸アパートも所有していたため、これらの権利が変に分割されないようにしたいとも考えていたようでした。

 

しかし、新しい遺言書は「子ども3人で仲良く3等分しなさい」という内容に変わっていました。この新しい遺言書も、父親の率直な思いだったのかもしれません。ただ、不動産の権利関係やその後の管理、税金対策などが抜け落ちてしまっていたようです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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