日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第3回目のテーマは「贋作をめぐる攻防」。

美術品売買時のチェックポイントとは?

そもそも、世界的なオークションハウスが盗難美術品をそれほど安易に販売するのか? いや、その可能性はほぼゼロに近い。世界的にその存在が確認されている絵画を販売する際には、いくつかのチェックを必ず受けることになっている。

 

まず一つ目が、来歴である。所有歴のつながりは詐称できない。さらに文献によるチェック。カタログ・レゾネという総作品目録で存在がチェックされる。これは、絵画で言うところの登記簿謄本のようなものなのだ。展覧会カタログや過去のオークションカタログにも様々な掲載文献の記述や売買履歴がある。

 

さらに重要なポイントは盗難美術品の可能性をチェックすることである。これはFBIやインターポールが共有している情報で、登録された盗難美術品は間違いなく弾かれ捜査の対象になる。現代ではALR(Art Loss Register)という世界的な組織があり、常時、盗難美術品や所有権に問題のある美術品はチェックを受けているのだ。

 

筆者もFBIには一度、贋作事件でニューヨーク支部に資料を提出したことがある。ニューヨークではフェデラルビルにオフィスがあり、専門チームが贋作や盗難美術品を専門に扱っている。ALRは1990年にロンドンで設立された団体で、現在、70万件にも上る盗難美術品のデータベースを駆使し、これまでに多くの盗難事件を解決してきている。

 

さらに重要なチェックポイントはナチスの略奪美術品ファイルに含まれているかどうか、である。それぞれのオークションハウスにはこのファイルが実際にあって、出品作品にナチス関連の絵画が含まれているかどうかは必ずチェックを受けるのである。これを知らずに売ってしまうとオークションハウスの名前には大きな傷がつくことになる。

 

かつてウィーンのベルベデーレ美術館に長らく寄託されていたクリムトの作品群は、クリスティーズが所有者ファミリーから預かりプライベートセールで販売した。長年の裁判でナチス略奪品として元の所有者ファミリーに返還されたもので、ニューヨークのエスティ―ローダー社が運営するノイエ・ギャラリーが450億円で購入したものである。

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