「持分あり」法人は高額の相続税に注意!
持分ありの医療法人を相続するとき、一番の課題は「出資持分が相続税を押し上げてしまう」ことです。医療法人の持分は、株式会社における株式とよく似ているのですが、株式とは異なる特徴もあります。まず、似ている点としては、株式も持分も保有者の財産として扱われます。出資持分が株式と異なる点は、おもに四点あります。
①配当が出せない
②分配しにくい
③換金できない
④社員の地位と結合しない(たくさんもっていても一人一票の発言権)
という特性です。
株式は、法人が利益を上げると、その利益分を「配当」というかたちで株主たちに分配することができます。配当によって利益を減少させることで、法人内に貯まる利益をコントロールすることができます。
一方、出資持分は配当を出すことができません。これは医療法第54条で定められています。なぜ配当を出せないかというと、医療法人は利益追求のための存在ではないからです。もし配当を出してしまうと、出資者が利益を得ることになり、医療法人の本来の存在目的と矛盾してしまいます。
配当を出せないということは、年を追うごとに法人の利益がどんどん貯まっていく一方になります。儲かっている会社ほど株価が高くなるのと同じで、医療法人の利益が多いほど持分評価は高くなっていきます。つまり、黒字が長く続いて利益が蓄積された医療法人は、それだけ持分評価が高額になってしまうのです。
設立から30年、40年と経過するうちに、持分評価が設立時の何十倍にも膨らんでいる医療法人も珍しくありません。私のお客様では、設立時に1000万円だった出資持分が、40年間で50倍の5億円になっていたケースがありました。
この方の場合、相続税のシミュレーションでは最高税率の55%が適用されますので、出資持分だけで2億7500万円の相続税がかかってくる計算でした。そのまま対策なしに相続を迎えると、相続税のために、大借金をしなければならないところでした。それで慌てて持分を引き下げる対策をして、事なきを得たというケースがありました。
「出資持分の分散」から起こるトラブルも
さらに出資持分には、複数人に分散させることで生まれるリスクがあります。ひとつは、「出資持分が分散すると、院長の思い通りに物事が決めにくくなる」という問題です。株式会社なら、たくさん株を持っている人の議決権は多く、少ない株式しかもたない人の議決権は少なくなりますが、出資持分は、社員(持分を持つ者)であれば、持分の多い少ないにかかわらず一人一票をもちます。
もし理事長以外に二人の社員がいて、その二人が手を組んだとしたら、どうなるのでしょうか。二対一の多数決で、理事長の意見が却下されてしまいます。議決のたびにこういうことが繰り返されると、理事長は自分の医療法人なのに大事なことが何ひとつ決められなくなります。医療法人経営は窮地に追い込まれてしまうでしょう。
もうひとつは、「払戻請求」の問題です。払戻請求というのは、出資者が保有する持分に相等する財産の払い戻しを請求することです。少しややこしいので、わかりやすく例を挙げてお話しします。
医大時代の仲間3人で、お金を出し合って医療法人を立ち上げたとします。理事長を務めるAが1800万円を出資し、平理事のBとCは600万円ずつを出資し、合計3000万円の出資で病院をスタートさせました。それから数十年、仲良く協力しながら病院経営を続けてきたのですが、ちょっとした考え方の行き違いから仲たがいをしてしまい、BとCがクリニックを辞めることになってしまいました。
さて、BとCはクリニックを出て行くにあたり、Aに自分たちが保有している持分を「買い取ってくれ」と言いました。持分をもっているBやCには、退社時に医療法人に対して、自己の持分に相当する財産の払い戻しを求める権利(払戻請求権)が認められています。払戻請求を起こされると、Aはそれを現金で払い戻さなくてはなりません。払い戻し額は、その時点での持分評価になります。仮に評価が設立時の50倍になっていたとすると、AはBとCそれぞれに3億円ずつを支払うことになります。
つまりAは、合計6億円の現金を、どこからか捻出してこなくてはいけなくなるのです。払戻請求のリスクをなくすためにも、出資持分は理事長一人に集中させるのがセオリーになります。そういう意味で、出資持分は「分けてはいけない資産」なのです。