バブル崩壊以降、長期的な低迷を続ける日本経済。この低成長時代でも「儲ける」ために、経営者は何をすればよいのでしょうか。本記事は、儲かる会社にするための「社長の仕事」について改めて見ていきます。

本当に「危機感がない」のは誰なのか?

最近「うちの社員は危機感がない」という社長を多く見かけるようになりました。景気も良く業績もいい時にはあまり聞かない話ですが、こういう世の中になって、売り上げが下がり、業績がふるわなくなると、「うちの社員はまったく危機感がない」という社長が増えてきたように思います。

 

景気が悪くなって危機感を持ち始める社員はいるとしても、景気が悪くなって危機感を捨てる社員はいないように思うのですが・・・。

 

社長から見た社員は、社長の心の中を映し出している鏡のようなものなのでしょう。社長自身がこの不況の処し方がわからない、迷っている、打つ手がない、そういう状況が「うちの社員はまったく危機感がない」という言葉になって表れているように感じます。

 

「いい会社とか悪い会社とかはない。あるのは、いい社長と悪い社長である」とは、経営コンサルタントの一倉定先生の言葉ですが、社員の危機感や仕事のやり方で会社の運命は絶対に決まりません。問題は社長の外にはない。これまで私は数多くの中小企業を見てきました。そのなかには業績のいい会社も悪い会社もありました。

 

しかし、いい会社と悪い会社の社員をそっくりそのまま入れ替えたとしても、業績のいい会社はいいままで、悪い会社は悪いままのような気がします。入れ替えなかった組織のトップが、そこで働く社員の働きぶりを決めているからです。

社長の仕事は「仕事を創造すること」

企業の目的はただ一つ、それは「顧客の創造である」とはドラッカーのことばです。確かにその通りで、顧客のいない会社など世の中には一社たりとも存在しないし、顧客がいなければ売り上げはゼロですから、顧客の創造は企業の使命とでもいうべき事項です。

 

ただ、この顧客創造という「ことば」を表面的にとらえて、やっぱり会社は新規顧客の獲得に注力しなければならないと、一生懸命営業マンの尻たたきをしている社長が少なくないように感じます。そんなに浅い話ではありません。

 

顧客を創造するとは、仕事を創造するということです。仕事を創造した結果が、社会有用性があり、顧客にとって喜ばれ、役に立ち、おまえの商品やサービスがないと困ると言わせるから顧客が創造されるのです。仕事の創造が先にあります。仕事の創造なくして顧客の創造はあり得ないのです。

 

社長にとっての仕事とは、「つくる」もので、「する」ものではありません。仕事を「する」のは社員です。社長が創造した儲かる「仕事」を与えられて「する」のが社員です。逆に言えば、社長が新しく儲かる「仕事」をつくらない限り、社員には「する」ことがありません。そういう会社が、今業績を悪化させているのです。

 

会社とは、会社の外部にいるお客さまに効果があるから存在します。そのもっとも大切な存在意義である「仕事の創造」を社長が放棄していたら、儲かる会社は永久につくれないでしょう。

 

社員が少々サボっていても儲かる、そんな仕事をつくるというのが、社長のもっとも大切な仕事です。

顧客はモノやサービスで得られる「機能」を買っている

社長の仕事とは「仕事を創造する」ことです。では、どうやって仕事を創造していくのでしょうか。

 

あるところに、建築工具の電動ドリルを製造販売していた会社がありました。ある時、レーザー光線で穴を開ける機械が世の中に登場したのですが、その会社の社長は「うちの売り物は電動ドリルだから、レーザー光線のドリルはうちには関係ない」といって何の対策も打ちませんでした。

 

しかし、簡単にきれいな穴が開けられるレーザー光線の機械に顧客を奪われた結果、その会社は販売不振に陥り潰れてしまったそうです。

 

この社長の判断には大きな間違いがありました。顧客は電動ドリルを買っていたのではなく、「穴」を買っていた。穴を開けるという機能を買っていたのです。それまで、穴を開けるという機能をたまたま満たしていたものが、電動ドリルだっただけで、顧客は電動ドリルを買っていたわけではなかったのです。

 

顧客は電動ドリルではなく「穴」を買っていた。 (画像はイメージです/PIXTA)
顧客は電動ドリルではなく「穴」を買っていた。
(画像はイメージです/PIXTA)

 

この逸話のような物語は、私たちに何を示唆してくれているのか。会社が売っている(と思っている)モノと、顧客が買っているモノとが違っていた――。顧客というのは、モノやサービスを購入する際、そのほとんどは、モノやサービスそのものではなく、そのモノやサービスを手に入れることによって得られる「機能」を買っているのです。

 

体重計を販売しているタニタという会社があります。タニタは、顧客は体重計で何を量っているのかと考えた結果、体重の数字そのものが知りたいわけではなく、自分が健康かどうかを知りたいのだという結論に行き着きました。その結果、体脂肪計というヒット商品が生まれました。

 

機能に着目した結果、顧客は体重計で「体重」を量っていたわけではなく、「健康」を測っているのだと気づいたのです。現在のタニタの理念は、「我々は、『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献します。」です。素晴らしい理念であり、機能です。

 

新幹線に乗る人は、目的地に早く着くという「時間」を買っています。ディズニーランドに行く人は、アトラクションにお金を払っているわけではありません。日常生活では味わえない夢のような「空間」にお金を払っています。

自分の会社が取り扱える「機能」は何か?

私の事務所では、事業の機能を「中小企業の問題解決」と定義しています。借り入れができない、数字がわからない、社員が一生懸命働かない、生産性が悪い、営業が弱い、管理がズサン、儲からない、儲かったと思ったら税金でもっていかれる・・・すべて問題です。税金は、社長が抱えているたくさんの問題の中の一つにすぎない。

 

中小企業に起こる問題を解決に導くために支援することが、私の事務所が世の中から与えられた機能です。まだまだ創造すべき仕事は、たくさんあります。

 

先日、銀行の方から、年商で8億円ほどのある会社を紹介されました。その社長は、同業の社長から経営計画書をつくってこんなふうにやっていると聞いて、早速顧問の税理士に相談したら、「うちは税理士事務所だから・・・」を連発されたそうです。あきらめて、銀行に経営計画に強い税理士を紹介してほしいと頼んだそうです。

 

あなたの会社の世の中から見た機能は何ですか。いつまでも、電動ドリルにしがみついているわけにはいきません。

対前年売上高を二桁以上伸ばしていく会社とは・・・

私の顧問先で、不動産の売買、仲介を行う業績好調のH社があります。この会社のU社長は、世の中の変化に常に敏感で、業態開発、フロントエンド商品の開発がうまい。

 

会社倒産、廃業、リストラなどによって、住宅ローンの返済ができなくなった債務者は、競売によって市場価格よりも極端に低い価格でマイホームを処分され、アパートなどに移り住む引っ越し費用すら残らない場合が多い。

 

こういう住宅ローンを抱えた債務者のマイホームを、競売ではなく、任意売却によって市場価格で売却することによって、債権者にも債務者にもメリットがあるという業態を開発し、業態の入り口は「一般社団法人」を設立、住宅ローンに窮する債務者に安心感を提供しました。

 

H社のフロントエンド商品は、一般社団法人による住宅ローンの救済であり、バックエンド商品は、今まで通り不動産の売買・仲介です。

 

U社長は、このスキームを導入するに当たって、平成25年の正月、1週間悩みに悩んだそうです。これから自分がやろうとしていることが、本当に世の中のためになるのだろうか・・・と。社長の思い、社長の正義が手帳にびっちりと記してありました。現在の問い合わせ件数は、月に20件を超えているそうです。

 

私の事務所のフロントエンド商品は、銀行借金の返済条件変更や複数債務の一本化など、金融調整支援を含めた再生支援です。そして、バックエンド商品は、相変わらず税務顧問です。

 

今、新商品や新業態を開発せずに、対前年売上高を二桁以上伸ばしていく会社を見たことはありません。何も、今までネジをつくっている会社に、ラーメン屋をやりましょう、と言っているわけではありません。自社の強み、自社の本命であるバックエンド商品を提供していくために、どんな業態を開発し、どんなフロントエンドを持つか、考えなければならない時期であると思います。

考えるか否かで、成果に大きな差がつく低成長時代

たとえば、あなたの会社が住宅のリフォームを仕事にしている場合、そろそろリフォームでもと思っている顧客に向けて、新聞や折り込みチラシで広告を打ちます。ところが思っていたより電話が鳴らない、鳴ってもほとんど相見積もりで決まらない・・・。こんな経験が少なからずあるのではないでしょうか?

 

それもそのはず、そろそろリフォームと思っていた顧客のうち、あなたの広告を見てすぐに受話器をとる人は、よっぽど変わった人か、すでに他社も調べ尽くしている人です。通常は、あなたの会社より安くていいリフォーム会社はないかとネットを使って調べ始めることでしょう。1円だって損したくないというのが人間の心理です。

 

あなたの広告は、顧客に対して他社と比較するという動機づけをしたにすぎないのです。商品そのものに圧倒的な違いがない限り、ここからライバルであるリフォーム会社との本当の価格競争が始まります(商品に圧倒的な違いがあると思っているのは、コチラだけの場合も多いですが・・・)。

 

顧客の行動心理を読まなければ、広告費をさらにかけて、さらなる価格競争に挑むことになります。では、価格競争せずに新規顧客を取り込むにはどうしたらいいのでしょう?

 

今すぐリフォームしたいという顧客群は、他社とよほどの違いがない限り、価格でしか釣ることはできません。最近の広告に対する反響率の悪さが物語っています。また、リフォームにまったく興味を持っていない人は、はなからあなたの広告に目は留まらない。そう、ターゲットは、いつかはリフォームと考えている顧客群しかいないことになります。

 

そうすると、広告というのは商品を売ることが目的ではなく、リフォームに興味がある人に自ら集まってもらうことが目的ということがわかります。自ら集まってもらう方法は、いつかはリフォームと考えている顧客群が知りたい、または知っておいたほうがいいという情報を発信していくことです。

 

「失敗しないリフォームのすすめ」などの小冊子で情報を発信したり、「リフォーム会社が本音で話すXX」「騙されないXX」などのセミナーを企画して、コミュニティーをつくり、顧客群の「失敗したくない」という欲求をただただ満たしてあげながら、信頼関係をつくっていきます。

 

信頼関係は、顧客群が考える期待をこちらが超え続けることですから、他社が逆立ちしてもマネできないような情報の質と企画の内容、接客や応対に至るまで、相当の時間とお金を投入して、この会社に頼めば絶対損はしないな、という空気を顧客に感じてもらうことです。こうなると、ライバルが競争相手から自分たちに変わります。

 

広告宣伝とは、間違ってもこちらの商品を宣伝することではありません。興味がある人に集まってもらうしかけをつくり、顧客が自ら購入への階段を上っていくプロセスに全力をあげ、信頼関係を構築することです。ここまでくるとほとんどの場合、価格の要素は無関係になるでしょう。

 

低成長時代では、考える人と考えない人の成果に、ものすごい差がつきます。

 

 

関根 威

SMC税理士法人 代表社員理事長

 

本記事は、2014年2月27日刊行の書籍『低成長時代に業績を伸ばす社長の条件 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代に業績を伸ばす 社長の条件

低成長時代に業績を伸ばす 社長の条件

関根 威

幻冬舎メディアコンサルティング

バブル崩壊以降、日本経済は長期的な低迷を続けています。いまや日本企業の75%が法人税を払っていないのが現状です。このような低成長時代には、経営者は何を心がければいいのでしょうか――。 本書では、外部コンサルタント…

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