日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

今いる社員の10年後の年齢と人件費を見える化

人財キャッシュフロー経営

 

中小企業の経営の要諦は、人、設備、売掛金、買掛金及び在庫にともなうキャッシュフローをいかに握るかにある。この5つの要素についての現金の流れをコントロールできれば、自社のキャッシュは自然と増えてくる。逆に言えば、これらの管理が杜撰で売上ばかりを求めていくと、売上が伸びるほどにキャッシュが不足して経営が苦しくなってしまう。

 

社長は、単に「今キャッシュがいくらあるか」を知っているだけでは不十分だ。事業をすれば、キャッシュは会社からいったん出て、再び戻ってくる。社長は、「キャッシュがどのように利用されて増殖していくのか」という一連のフローを把握しておかなければならない。

 

キャッシュと人の流れを統一的に把握すれば、中小企業の組織を考える上で効率的だという。(※写真はイメージです/PIXTA)
キャッシュと人の流れを統一的に把握すれば、中小企業の組織を考える上で効率的だという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そして、会社から出入りするのは、キャッシュだけではない。人材も同じだ。採用すれば会社に入る。退職すれば会社から出ていく。キャッシュと人は、同じような動きをするわけだ。そうであれば、キャッシュと人の流れを統一的に把握すれば、中小企業の組織を考える上で効率的なのではないか。そういった視点から私が体系化したものが、「人財キャッシュフロー経営」というコンサルティング手法だ。

 

今いる社員の10年後の年齢推移と予想人件費を見える化する

 

社長は、将来のキャッシュの動きについては考えているが、人の動きについてはあまり意識を向けていない。私のコンサルティングでは、今いる社員を基本にこれから10年間の年齢の推移と予想される人件費を「人財キャッシュフローシート」に書いてもらう。

 

シートの具体的な記入方法については、あとで詳しく説明するが、読者の方々もぜひ一度作成してみてほしい。この1枚のシートからでも「3年後に製造の責任者が退職するけれど、引継ぎ予定者がいない」「平均年齢が50歳を超える」「現在の規定では7年後にかなりの退職金の負担が出る」など、あれこれ見えてくる。コンサルティングを受けた社長からは、「人についてはあまりにも近視眼的だった。はじめて鳥瞰図を目にした」という評価をいただいている。

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社長、辞めた社員から内容証明が届いています

社長、辞めた社員から内容証明が届いています

島田 直行

プレジデント社

誰しもひとりでできることはおのずと限界がある。だから社長は、誰かを採用して組織として事業を展開することになる。そして、誰かひとりでも採用すれば、その瞬間から労働事件発生の可能性が生まれる。リスクにばかり目を奪わ…

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