日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

「必ず裁判で勝つ」ことを望むダメ社長

裁判での勝ち負けにこだわったら解決は難しい

 

社長は、基本的に勝負にこだわる。「あの社員を許せないので、必ず裁判で勝ってくれ」といきなり切り出してくる方もいる。誰だって勝負には勝ちたいものだ。それでも私は、いつもこう伝える。

 

「訴訟に勝つことが目的なら、他の弁護士に相談したほうがいいですよ」

 

弁護士には、それぞれ仕事観といったものがある。とにかく勝訴することにこだわる弁護士もいるであろう。むしろ一般の方からすれば、法廷で威風堂々と議論をするのが理想の弁護士のイメージかもしれない。

 

中小企業の社長が弁護士に依頼する目的は、問題をできるだけスムーズに解決することのはずだ。(※写真はイメージです/PIXTA)
中小企業の社長が弁護士に依頼する目的は、問題をできるだけスムーズに解決することのはずだ。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しかし、私のイメージはまったく違う。労働事件に対する私の基本スタンスは、「裁判に頼らない解決」だ。

 

中小企業の社長が弁護士に依頼する目的はなにか。それは裁判で勝つことではなく、問題をできるだけスムーズに解決することのはずだ。それならば、あえて裁判での勝ち負けにこだわる必要はない。方法はどうであれ、解決すればいいわけだ。

 

裁判が長引くのは百害あって一利なし

 

そもそも裁判とは、社会の問題を解決するためのひとつの手段でしかない。日本人は、「和をもって貴しとなす」という聖徳太子の言葉にあるように、話し合いによる解決を重視してきた。社長のなかには、ビジネスである以上、白黒をはっきりさせることにこだわる人もいるが、賛同できない。

 

人間同士のコミュニケーションとは、本来的に曖昧な部分を持っている。曖昧な部分があるからこそ、相手の顔を立てることで話が円滑に進む場合も多々ある。

 

私の解決方法は、ときに「玉虫色の解決」と批判されることもあるが、何色であったとしても解決したらしめたものだ。ずるずると裁判を続けて、事案が終了しないほうが社長にとってよほど悲惨だ。労働事件ではとくにそうだ。裁判になってお互いが目くじら立てて言い争って、誰が得をするのだろう。

 

私は、社長向けのセミナーで「労働事件に勝者はいない」と日頃から伝えている。そもそも裁判になれば、不利なのは社長のほうである。仮に社長が有利になったとしても、社員と法廷で争ったことによるなんとも言えない寂寥感のみが残る。ときどき「裁判で社員をつぶしてやった」と満足げに話される社長を目にするが、そのような社長を私は間違っても自分の顧問先にはしない。はっきり言って品性がない。

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