日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

なぜ「まぶしすぎる会社は怪しい」のか

SNSの写真に要注意?

 

すべての社長は、人の問題で悩んでいる。これは経験から学んだことだ。程度の差や内容に違いはあれど、「人の問題で悩みがない」という社長に会ったことはない。中小企業の社長はどうしようもなく孤独な存在で、誰にも相談することができない。だから人の問題で悩んでいることが周囲にはなかなかわからないだけだ。

 

人の問題で不安を抱えていたある社長がリラクゼーションの店を展開する他の社長のSNSページを見て、羨ましがっていた。そのページには、夜間に開催される社内勉強会の様子や社員同士の打ち上げの様子を写した写真が彼らの満面の笑みとともに上げられていた。社長のコメントも「明日に向かってがんばるぜ」といったポジティブ思考全開のものだった。まさにまぶしすぎるほど立派な会社であった。

 

まさにまぶしすぎるほど立派な会社のように見えているが…。(※写真はイメージです/PIXTA)
まさにまぶしすぎるほど立派な会社のように見えているが…。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

人の問題で悩んでいた社長はそのSNSページを見ながら「うちの社員もこんなに前向きなら」と嘆息をもらしていた。私は思わず吹き出してしまった。

 

「ここ、まったくいい会社ではないから」

 

この会社は、地元のメディアに求人広告をずっと出していた。世の中がいくら人手不足だといっても、一店舗しかないのに人手不足がいつまでも解消しないのはおかしい。これはとにかく退職者が多いのだろう。SNSの写真をよく見てみると、社員の顔ぶれが毎回微妙に変わっていたりする。また、勉強会の様子を写した写真をよく見ると、社員の後ろに写っている時計は午後11時を指している。そんな勉強会は普通考えにくいだろう。

 

労働事件を扱う士業の集まりで、「まぶしすぎる会社は怪しい」と話したら、かなりの共感を得られた。

 

完璧さの裏に隠された真実を見抜け

 

かつて先輩の弁護士から「完璧な事件こそ疑え」と指導を受けたことがある。人間のやることだから、いくら注意しても不自然なところが残るのが普通だ。それがあまりにも完璧な証拠がそろってなにひとつ非の打ちどころがないのはかえって不可解ということだ。こういう場合には誰かが絵を描いて無理につじつまを合わせていることが多い。

 

前述した完璧すぎるSNSの投稿などはまさにこれだ。社員の満面の笑みも、ただ社長の指示でやっているだけかもしれない。それはそれで社員にとっては負担になる。

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社長、辞めた社員から内容証明が届いています

社長、辞めた社員から内容証明が届いています

島田 直行

プレジデント社

誰しもひとりでできることはおのずと限界がある。だから社長は、誰かを採用して組織として事業を展開することになる。そして、誰かひとりでも採用すれば、その瞬間から労働事件発生の可能性が生まれる。リスクにばかり目を奪わ…

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