トラブル解決は〝論〞より〝情〞で対応する
ワンマン社長も背後からの矢には弱い?
労働事件の幕開けは、社員本人あるいは社員の代理人から送られてくる内容証明だ。単なる書面であるが、社長にとっては、ことのほか重くつらい。「いったい、なにが悪かったのか」と答えの出ない自問をしつつ、不安と憤りでその日の夜を迎えることになる。
中小企業の社長といえば、ワンマンで強烈な性格の人が少なくない。尖った性格こそ、事業発展のエネルギーなのかもしれない。しかし、そういった社長も、人の問題になるとなんとも弱い。売掛金回収の失敗なら「なにくそ」となる社長が、人とのトラブルになると、途端に「先生、どうしましょう」と慌てるから不思議だ。人間、背後からの矢には弱い。
中小企業で起こる一切の責任は、すべて社長ひとりが負うべきだ。労働事件にしても同じである。極端なことを言えば、社員が起こしたセクハラも社長が悪いということになる。それが中小企業の社長に求められる覚悟である。だからこそ、社長の姿勢が労働事件にも表れてくる。
ここでは労働事件でもめにくい社長の特徴を整理してみよう。
トラブル解決は〝論〞ではじめて〝情〞で終わらせる
かつて水産加工業の労働事件を担当したことがある。著しい成績不振を理由に、社長が社員に執拗に退職を勧めたとしてトラブルになった事案だ。退職を勧める場合も、やり方によっては違法になる。だから社員がわかりやすいように、退職を勧める理由を事前に用意して論理的に説明した。しかし、説明したところで社員から「難しいことを言われてもわかるわけがない」とこっぴどく叱責された。
弁護士の交渉といえば、とかく論理ばかりが重視される。だが、人間は感情を持った動物であり、論理だけでは動かない。交渉の目的は、相手を論破することではなく、相手に行動させることである。そのためには、相手の情への配慮がなければならない。
社員は社長の道具ではない。社員には、人格があり、家庭があり、将来がある。それなのに社長が一方的に「論理的にこうだから」と言えば、誰だって不満を覚えるし、怒りの感情を抱く。相手を説得することがうまい社長は、論と情のバランスが絶妙だ。
造園家であり投資家としても知られていた本多静六の言葉に、「論からはじまり情で終わる」というものがある。社員とのトラブルを回避するためには、まさに「論からはじまり情で終わる」話し方を意識しておくべきだ。