交渉で相手の顔をつぶさない…トラブル解決が上手な社長の特長

日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

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トラブル解決は〝論〞より〝情〞で対応する

ワンマン社長も背後からの矢には弱い?

 

労働事件の幕開けは、社員本人あるいは社員の代理人から送られてくる内容証明だ。単なる書面であるが、社長にとっては、ことのほか重くつらい。「いったい、なにが悪かったのか」と答えの出ない自問をしつつ、不安と憤りでその日の夜を迎えることになる。

 

中小企業の社長といえば、ワンマンで強烈な性格の人が少なくない。尖った性格こそ、事業発展のエネルギーなのかもしれない。しかし、そういった社長も、人の問題になるとなんとも弱い。売掛金回収の失敗なら「なにくそ」となる社長が、人とのトラブルになると、途端に「先生、どうしましょう」と慌てるから不思議だ。人間、背後からの矢には弱い。

 

中小企業の社長といえば、ワンマンで強烈な性格の人だが、背後からの矢には弱い。(※写真はイメージです/PIXTA)
中小企業の社長といえば、ワンマンで強烈な性格の人が多いが、背後からの矢には弱い。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

中小企業で起こる一切の責任は、すべて社長ひとりが負うべきだ。労働事件にしても同じである。極端なことを言えば、社員が起こしたセクハラも社長が悪いということになる。それが中小企業の社長に求められる覚悟である。だからこそ、社長の姿勢が労働事件にも表れてくる。

 

ここでは労働事件でもめにくい社長の特徴を整理してみよう。

 

トラブル解決は〝論〞ではじめて〝情〞で終わらせる

 

かつて水産加工業の労働事件を担当したことがある。著しい成績不振を理由に、社長が社員に執拗に退職を勧めたとしてトラブルになった事案だ。退職を勧める場合も、やり方によっては違法になる。だから社員がわかりやすいように、退職を勧める理由を事前に用意して論理的に説明した。しかし、説明したところで社員から「難しいことを言われてもわかるわけがない」とこっぴどく叱責された。

 

弁護士の交渉といえば、とかく論理ばかりが重視される。だが、人間は感情を持った動物であり、論理だけでは動かない。交渉の目的は、相手を論破することではなく、相手に行動させることである。そのためには、相手の情への配慮がなければならない。

 

社員は社長の道具ではない。社員には、人格があり、家庭があり、将来がある。それなのに社長が一方的に「論理的にこうだから」と言えば、誰だって不満を覚えるし、怒りの感情を抱く。相手を説得することがうまい社長は、論と情のバランスが絶妙だ。

 

造園家であり投資家としても知られていた本多静六の言葉に、「論からはじまり情で終わる」というものがある。社員とのトラブルを回避するためには、まさに「論からはじまり情で終わる」話し方を意識しておくべきだ。

 

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島田法律事務所 代表弁護士

山口県下関市生まれ。京都大学法学部卒。山口県弁護士会所属。
「中小企業の社長を360度サポートする」をテーマに、社長にフォーカスした“社長法務”を提唱する異色の弁護士。会社の問題と社長個人の問題をトータルに扱い、弁護士の枠にとらわれることなく、全体としてバランスのとれた解決策を提示することを旨とする。基本姿勢は訴訟に頼らないソフトな解決であり、交渉によるスピード解決を目指す。顧問先は、サービス業から医療法人に至るまで幅広い業界・業種に対応している。
最近は、労働問題、クレーム対応、事業承継(相続を含む)をメインに社長に対するサービスを提供。クライアントからは「社長の孤独な悩みをわかってくれる弁護士」として絶大な信頼を得ている。とくに労働問題は、法律論をかかげるだけではなく、相手の心情にも配慮した解決策を提示することで、数々の難局を打破してきた。そのような実績から、経営者あるいは社会保険労務士を対象にしたセミナーで、「社長目線での解決策」を解説することが多い。これまで経営者側として対応してきた労働事件は、残業代請求から団体交渉まで、200件を超える。

著者紹介

連載知らないと損する!労働法は社長の味方ではありません

社長、辞めた社員から内容証明が届いています

社長、辞めた社員から内容証明が届いています

島田 直行

プレジデント社

誰しもひとりでできることはおのずと限界がある。だから社長は、誰かを採用して組織として事業を展開することになる。そして、誰かひとりでも採用すれば、その瞬間から労働事件発生の可能性が生まれる。リスクにばかり目を奪わ…

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