残業代請求で800万円…労働事件で会社が傾くことが多いワケ

日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

社長は誰かを雇えばリスクを背負うことになる

労働事件の防止には「カネ」の動きも見逃すな

 

現実はいつも生々しい。誤解を恐れずに言えば、ヒトを動かせば必ずカネが動く。ヒトを活用すればカネが入ってくるし、ヒトを雇用すればカネが出ていく。社長は、労働事件について考える際に「労働」という視点でしか眺めないために失敗する。労働事件を防止するためには、人の背後に動くカネの動きにも注意しなければならない。

 

社長にとってヒトとカネの関係といえば、まっさきに思い浮かぶのは人件費だろう。中小企業にとって人件費は最大の経費である。人件費のコントロールは、社長として避けては通れない。

 

人件費のコントロールは、社長として避けては通れないという。(※写真はイメージです/PIXTA)
人件費のコントロールは、社長として避けては通れないという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

労働分配率を見れば、社長の経営手腕がざっくりとわかる。ここで言う労働分配率とは、「人件費÷粗利×100」から導かれる、ざっくりしたものだ。労働分配率が30%台だと「すごいですね」、40%台だと「いいですね」、50%を超えてくると「注意しないと」ということになる。こういった数字に根拠はなく、あくまで経験的なものだが、自分なりの目安にはなる。

 

労働事件によるキャッシュアウトで会社が傾くことも

 

もっとも、ヒトにまつわるカネは人件費だけではない。たとえば、採用に関わる費用、備品などにかかる費用、出張旅費など見えないコストがかかっている。最近では、社員から未払残業代の請求を受ける会社も増えてきた。その他にもパワハラや労災事故で会社が損害賠償金を支払うこともある。

 

労働事件にともなうキャッシュアウトは、社長にとってまったく予想外なのが通常だ。そのため、潜在化していた労務リスクがいきなり顕在化すると、資金繰りに窮することが多々ある。たとえば、あるサービス業の会社は、2名の社員から残業代を請求され、約800万円を支払う羽目になった。別の不当解雇の事案では、退職してもらうために1000万円近くの負担を余儀なくされた。

 

銀行もさすがに「労働事件解決のため」という理由で融資してくれることはまずない。そのため、社長としては手元資金で対応せざるを得ないため、ぎりぎりの資金繰りのなかでかなりの負担になる。資金繰りに失敗すると、事業自体が成り立たなくなる危険だってある。

 

ひとりでも誰かを採用すれば、なんらかのリスクを背負うことになる。社長は、リスクをとるからこそ、事業を発展させることができる。とれるリスクは積極的にとるべきだ。

 

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    島田法律事務所 代表弁護士

    山口県下関市生まれ。京都大学法学部卒。山口県弁護士会所属。
    「中小企業の社長を360度サポートする」をテーマに、社長にフォーカスした“社長法務”を提唱する異色の弁護士。会社の問題と社長個人の問題をトータルに扱い、弁護士の枠にとらわれることなく、全体としてバランスのとれた解決策を提示することを旨とする。基本姿勢は訴訟に頼らないソフトな解決であり、交渉によるスピード解決を目指す。顧問先は、サービス業から医療法人に至るまで幅広い業界・業種に対応している。
    最近は、労働問題、クレーム対応、事業承継(相続を含む)をメインに社長に対するサービスを提供。クライアントからは「社長の孤独な悩みをわかってくれる弁護士」として絶大な信頼を得ている。とくに労働問題は、法律論をかかげるだけではなく、相手の心情にも配慮した解決策を提示することで、数々の難局を打破してきた。そのような実績から、経営者あるいは社会保険労務士を対象にしたセミナーで、「社長目線での解決策」を解説することが多い。これまで経営者側として対応してきた労働事件は、残業代請求から団体交渉まで、200件を超える。

    著者紹介

    連載知らないと損する!労働法は社長の味方ではありません

    社長、辞めた社員から内容証明が届いています

    社長、辞めた社員から内容証明が届いています

    島田 直行

    プレジデント社

    誰しもひとりでできることはおのずと限界がある。だから社長は、誰かを採用して組織として事業を展開することになる。そして、誰かひとりでも採用すれば、その瞬間から労働事件発生の可能性が生まれる。リスクにばかり目を奪わ…

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