相続発生時、遺言や遺書の有効性についてトラブルが発生するケースが多発しています。知識を身につけ、もしもの時に備えましょう。今回は事例をもとに、一度書いた遺言書を撤回する方法を見ていきましょう。

 

これ以外に撤回する方法としては、前の遺言書とは別に新たに遺言書を作成する、すなわち変更という方法によります。民法968条2項に規定されていますが、変更の方法については

 

「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、且つ、その変更の場所に印をおさなければ、その効力がない。」

 

と規定しています。

 

この民法968条の2項の規定は、自筆証書等の遺言書の加除その他の変更について厳格な方式を定めており、通説的見解によれば、この方式に違反した変更がされた場合には変更しても無効となり、変更前の遺言の内容のまま残るという解釈がされています。

斜線は「遺言書の破棄、変更」どちらの扱いになる?

このように、民法が遺言書の撤回、変更について厳格な様式を定めているため、本件のように、遺言書全体に斜線を引いた行為は、民法1024条前段の「遺言書の破棄」なのか、それとも968条2項の「変更」とのいずれに当たるのかが問題となるのです。

 

この点について、通説的な考え方は

 

「本件遺言書に本件斜線を引く行為は,元の文字が判読できる程度の抹消であるから,『遺言書の破棄』ではなく,『変更』に当たり,民法968条2項の方式に従っていない以上,『変更』の効力は認められず,本件遺言は元の文面のものとして有効である」

 

というものです。

 

そのため、本件の元となった裁判例で、広島高等裁判所は斜線が引かれた自筆証書遺言を有効なものと判断しました。この高等裁判所の判断に対して、最高裁判所平成27年11月20日判決は、以下のように判示し、遺言書を無効と判断しました。

 

「本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。

 

以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は,効力を有しない。」

 

最高裁判所の判断内容はとても常識的な内容に感じます。それでもこの事案が最高裁まで争われたというのは、ひとえに遺言書については厳格な様式を守る必要がある、という考え方が根強いことにあります。

 

自筆証書遺言書の作成等についてはこの点をしっかり頭に入れておく必要があります。

 

※本記事は、北村亮典氏監修「相続・離婚法律相談」掲載の記事を転載・再作成したものです。

 

 

北村 亮典

こすぎ法律事務所 弁護士

 

 

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