一度もなかった感情。それは…
それは、「孤独」。無重力ゆえに定位置に滞在した。
これまで、孤独だと思ったことなど一度もなかった。これは、私の内面も外面も包み込み、まるで無人島に漂流したかのように非日常的な感覚を与えた。全身が脱力感で生きるのを止めたがっていた。
人が孤独を知ることは、生涯の中では少なかれあると思う。けれど、結婚をして家族五人の生活の中では物理的にはあり得ない筈だが。
知らぬ土地へ来て、友達はいない。何かあっても相談できる人は一人もいなかった。実家の母になどましてや言えない。心配をかけたくなかった。自分のことは全部自分で考え導かなければならないと思っていた。
生きることは、修行である。孤独を知ることは、私にとって必要なことなのだと受け入れようと思った。孤独ではあるが、絶望感はなかった。生きるのを止めたいと思ったが、死にたくはなかった。私は、弱くはないのかもしれない。
気がつくと、一筋の涙が目尻を伝って枕を濡らしていた。伝った涙は温かい。まだ大丈夫、私は生きている。その温度は、心地良かった。少しだけ眠りについた。
その夜、夫はとうとう帰宅しなかった。無断外泊。
朝六時。玄関の引き戸がガラガラと音を立てた。夫が帰ってきた。