舅のターン「お前は頭が変だな。まともではないな」
食べることを忘れられた、キムチ鍋は赤くグツグツ煮えたぎり溶岩と化していた。それは今にも噴火しそうな気配であった。天井へ上昇していく蒸気がさらに感情を応援した。
昼食とは、本来ゆったり寛ぎ料理の味を楽しむべき時間なのであろうに、それはとうてい許されなかった。
売られた喧嘩は買うのが私流である。そして負ける喧嘩はしない。
「お前は頭が変だな。まともではないな」
私は今まで生きてきた中で、一番の称賛の言葉を聞いた。称賛の凶器は私の脳をデカいハンマーで叩き割った。脳ミソは台所の床に飛び散った。破壊されたのは脳ミソだけである。心は無傷であった。私の正義は勝っている。心に乱れはない。反対に「ヤッター。ヨッシ」とガッツポーズをした。歓喜の叫びであった。逆境で生きるために私に与えられた強い力を自覚した。
後のバトルは支離滅裂ぐちゃぐちゃだった。人としての理性のかけらもなく、言いたい放題。どれくらいの時間が経過したのだろう。バトル開始から三十分経過した頃、血圧の高い舅は、急に「ふぅーっ」と息を吐き、殺気を失った。
「えっ、もう終わり?」
心の中で、私は、つまらないと呟いた。最後のクライマックスからフィナーレの幕が下りるまで、演じきりたかったのだが、途中で終了したことに少々物足りなさを感じていた。
視界を下げ、キムチ鍋を見ると、スープはなくなり土鍋のへりに赤黒くこびりついていた。
舅は、そのキムチ溶岩を一口体内にドロッと流し込んだ。
【続く…】
本記事は幻冬舎ゴールドライフオンライン掲載の『プリン騒動』を再編集したものです。