いつものポジションにドカッ!座った舅がまず一言
昼食の準備が整ったので、二階の居間にいる舅を呼びに行った。舅は、普段通りテレビを見ていた。テレビのボリュームが大きかった。長年の仕事と加齢で聞こえが遠くなったらしい。いつも大声で怒鳴っているのは、そのせいかもしれないと、ふと情けを感じた。がすぐに取り消した。
「お昼ができました」と声をかけた。
台所へゆっくりとした足どりでノシノシと入り、いつものポジションにドカッと座った。そう、舅は肥満の体型なのだ。九十キロと記憶にある。美味しい物はお腹一杯食べて動かない生活を繰り返していれば、そうなるのは当然だ。言わば自業自得である。スーツやジャケットは全てオーダーしていた。既製品は合うサイズがないのだ。
ご飯とみそ汁をよそった。舅の第一声が発せられた。
「何だ、具が足りないな。肉がないな」
ネギと豆腐は足したが、豚肉は入れていなかった。キムチ鍋を真ん中に挟んで、対面での絶妙な配置が吉と出るか凶と出るかは、これからの舅次第。予想は決して裏切らなかった。私は、一口も食べずに次の瞬間レディゴーのゴングが鳴ったのを聞いた。カーン‼
相手は、目の前にいる一人しかいなかった。いつもマイナスの言葉しか発しない天才。人を承認など全くしない。たとえ会社では社長と呼ばれる立場にあったとしても、人としての最低限のマナーと品格は備えて欲しいものだ。しかし、その願いは虚しく打ち砕かれていった。
「息子は、お前と知り合ってからダメになった。お前が全部悪いんだからな」
確かに、音声は耳の手前まで来ていた。しかし、耳の奥へは入って来なかった。意味不明、しかも心当たりもなかった。違和感が私の気持ちを支配した。
この「お前」とは、一体誰を指しているのだろうか? 今現在、台所には二人しか存在していない。相手から見ての「お前」は、残り一人しか当てはまらないのである。私の右手人差し指は自分に向いていた。いろいろな迷路を辿ってやっと私のところに着いた。思考回路が繋がったところで返した。
「あの、お言葉を返すようですがそれは違うと思います。結婚してから、夫として父として、会社の立ち場ある人としての行ないは、始めから悪かったので。父親としての責任はもとより、会社における立ち場にも責任を果たさず従業員も大変迷惑しております。一番の原因は、貴方との父子関係、すなわち信頼関係の崩壊にあると思います。会社の社長は貴方です。社長が何とかして下さい。社内もバラバラでまとまりません。よろしくお願いします」
はっきりとした口調で言った。
人から言われることがいっさい嫌いな性格であるから、ここから先はどう展開していくかは想定内であった。