税務調査官が目をつける「脱税」の手口とは?
税務署は具体的にどのような脱税の手口をチェックしているのか。それは「売上の除外」「原価・経費の水増し」「在庫の除外」の3つに集約されます。以下、詳しく見ていきます。
売上除外の手口1:営業時間のごまかし
最も典型的な手口は、特定の営業時間の売上を除外する方法、たとえば夜10時閉店としながら、実際には11時に閉店することで1時間分の売上を除外するといった方法です。税務調査官は定休日や営業時間を把握しているのはもちろん、客を装って来店し、商品単価や客数、回転数などを調べて1日の売上を計算します。特定の営業時間の売上を抜いていれば不自然な点が浮かび上がってきますから、それを手がかりに不正を見破るのです。
映画『マルサの女』では、宮本信子扮する調査官がラブホテルの駐車場に張り込み、車の数から客数を割り出しているシーンがありました。駐車場の張り込みは実際に行われている調査手法のひとつで、私自身も税務調査官時代に経験したものです。
営業時間の不正を見つける方法は、ほかにもさまざまなテクニックがありますので、簡単にごまかせると思っているとすれば大きな間違いです。この手口を使うのは家族経営の小売店や飲食店がほとんどで、売上管理の厳しいチェーン店ではあまり見られません。
売上除外の手口2:レジの操作、伝票の破棄
伝票を破棄するのも昔からよくある手口ですが、単純に一部がなくなればナンバリングの整合性がなくなるため、税務調査官は簡単に見抜くことができます。あるいは調査官が客を装って来店し、伝票に小さなしるしを付けておき、数日後に税務調査に入った際にその伝票が存在するかどうかを確認するのです。
では、そもそもレジや伝票を使用していない店はどうでしょう。個人経営の飲食店では、メモ用紙に注文を手書きしているケースもよく見られます。その場合、そもそも税務調査官は「この店は売上をごまかしている」という目で見ています。調査の対象になるかどうかは別にして、伝票がないという不自然さが税務調査官の心証を悪くするのは間違いありません。
この様なケースでは、経営者と家族の預金を徹底して調べます。さらに、仕入内容・金額と売上との対比等で不審点と不審金額を推計して両面から調査を進めます。
売上除外の手口3:現金を抜く
これも家族経営の小売店や飲食店に多い手口で、1日に売上を1万円ずつ除外するといったケースです。経営者本人は「わずかな金額だし見つかりにくいだろう」と思っているかもしれませんが、1カ月で30万円、1年間で300万円を超えます。個人経営の店舗ではそれなりの額になるといえます。
税務署はさまざまな手法を用いてその不正を取り締まります。同じく映画『マルサの女』で税務調査官が個人商店に税務調査に入り、不正を指摘された老夫婦が泣き叫ぶ場面がありました。店舗の惣菜を家族の食事に充てるといった小さな不正すらも、調査官は見逃さずに指摘したのです。税務調査官の役割は、正しい申告と納税がなされているかをチェックし、それを正すことです。
売上除外の手口4:遠隔地にある拠点の売上除外
このケースは少し規模の大きな脱税手口といえます。日本全国に拠点や店舗を持っているような会社が、北海道や九州といった遠隔地にある拠点の売上の一部を除外してしまうのです。
たとえば全国展開しているA社の本社が大阪にある場合、A社は大阪の税務署の管轄となります。そのため、かつては税務調査官が各地の拠点存在や取引内容をすべて把握するのは不可能でした。脱税者は、いわばこの距離の優位性を利用して不正を働いていたわけです。
しかし、この手口はもう通用しません。現在、全国の国税局・税務署の調査官はKSK(国税総合管理システム)を利用しています。KSKとは国税局と各地の税務署がネットワークで結ばれ、納税者の申告に関する全情報が一元管理されているシステムのことです。
このシステムが導入されたのは1999年。これにより税務調査はスピード・質ともに飛躍的にアップしたといえるでしょう。税務調査官は常時このシステムにアクセスし、日本全国の法人企業、個人商店、個人事業主などの税務情報をチェックして脱税調査に役立てているのです。
売上除外の手口5:スクラップ除外
製造業や建築業などは、性質上、鉄や銅、アルミニウムといった金属くずが大量に発生します。こうした金属くずを廃棄したとみせかけてスクラップ業者に売却し、その売上を除外する手口も脱税の常套手段になっていました。
スクラップ業者には現金商売が多く、脱税を助長している面がありました。しかし、脱税が多いと知られているということは、摘発の対象になりやすいということです。加えて、現在は身分証明書のコピーを渡さなければ購入してくれないスクラップ業者も多く、この方法で脱税を働くのは難しくなっています。
売上除外の手口6:売上の繰り延べ
3月決算の会社が3月末の売上を4月に意図的に繰り延べるなど、売上の計上を次年度に持ち越す行為で「期ズレ」とも呼びます。通常、販売業であれば「商品が引き渡された日」、サービス業あれば「サービスの提供が完了した日」など、売上を計上するタイミングは所得税法で定められています。そのルールを破り、納品書の日付や帳簿を偽装するのです。
売上の繰り延べが疑われる場合、税務調査官は対象企業に加えて取引先を調査し、出荷伝票を突き合わせて不正を暴いていきます。ただし、なかには経理担当者の勘違いによって売上の時期が繰り述べられている場合も考えられます。その場合、故意の偽装ではなく経理担当者の認識不足やミスによるものなので、脱税に問うのは難しく修正申告により過少申告加算税の扱いになります。
売上除外の手口7:隠し預金口座、貸金庫
除外された売上の多くは預貯金や現金として保管されるケースが多く、保管場所として隠し預金口座や貸金庫が利用されます。かつては偽名口座が多く見られましたが、現在は免許証等の身分証明がなければ預金はできませんので、実在の個人名義の口座になっています。しかも大半は本人あるいは親族の名義です。
必然的に本人の自宅や会社、通勤経路周辺の銀行を利用することが多くなるため、その地域の銀行に依頼し、預金者情報を調べれば見つけることができます。そのほか、ある程度の預金残高があれば利子がつくため、それを手がかりに突き止めることもできます。
さらに今後、マイナンバーと預金口座が完全に紐付けば、隠し預金口座を利用した脱税は不可能と思ってください。貸金庫についても貸金庫の使用料が引き落とされるため、関連する銀行口座を調べることで存在を突き止められます。
次に経費を架空計上(水増し)し、利益を少なく見せる手口です。売上除外と同様にこちらの不正も後を絶ちませんが、税務署の調査の網にかかるとまず逃れられません。