中小企業はなぜ「人材不足の迷宮」に陥ってしまうのか
企業の人材不足は、業種によってもバラつきがありますが、規模の小さい企業ほど深刻です。大手企業であれば大々的に人材募集の広告をうったり、新卒向けの就職説明会に予算を多く割いたり、優秀な人材を他所から引き抜いてきたりも可能ですが、資金力の弱い中小企業ではそうもいきません。
必然的に求人手段は、ハローワークや知人・友人の紹介などに頼らざるを得なくなります。もともと知名度のハンディがあって応募が少ないところに、近年の求人回復による競争の激化で、ますます人が集まりにくくなっているのです。
単純に、「十分な数の従業員を雇うだけのお金がない」という会社も多いことでしょう。景気回復してきたとはいえ、アベノミクスの恩恵は中小零細企業にまではなかなか及んでいません。従業員の賃金アップに対応するだけで精一杯で、新たな人材を雇い入れるだけの余裕がないというのが正直なところだと思います。
ただ、少ない人数で仕事を回そうとすると、どうしても従業員一人ひとりの負担は大きくならざるを得ません。すると、「給与待遇への不満」や「会社の将来性への不安」「労働時間が長い」といった訴えが従業員の中に生まれやすくなり、従業員の離職率は高まります。賃金などのコストカットのシワ寄せが、極端な形で従業員に降りかかってくる会社が、いわゆる「ブラック企業」ということになるでしょう。
中小零細企業では「もともと求人が集まりにくい」という素地があるところに、資金力不足で「新しい人材を雇えない」、労働条件の不備や悪化で「従業員が定着しにくい」などの事態が連鎖し、さらに人材を確保しにくくなる悪循環が生まれています。
そして、この人材不足という「迷宮」に嵌まり込んでしまうと、そこからの脱出は非常に困難になります。人材確保には多額の資金が必要なばかりではなく、その育成にも時間がかかるからです。ブラック企業化してしまう前に、人材不足の問題には終止符を打っておきたいものです。
ブラック企業あるある:従業員を苦しめる経費削減
有能な人材を集め、長く定着させるためには、働き手にとって魅力的な会社、つまり、「ここで働きたい」と思ってもらえる会社でなくてはいけません。
ブラック企業といわれる会社では、必ずと言っていいほど徹底的なコストカットが行われています。極端に人件費や交際費などをカットしようとするあまり、「残業代が支払われない」「交通費が支給されない」「得意先との接待費を自己負担させられた」などの問題が起きて、従業員との間のトラブルになる事例が後を絶ちません。
一方で、経費削減は「原価のかからない利益」ともいわれ、経営的にはどの会社も積極的に行うべきものです。モノやサービスを売って100万円の利益を上げるには、仕入や人件費などの原価がかかりますが、経費を100万円分削減すれば原価ゼロで100万円の利益を上げたことになります。要は、コストダウンのやり方やその度合いの問題です。
従業員に負担を強いるような経費削減は「ブラック企業」への転落まっしぐらです。逆に、従業員を満足させ、会社の将来につながるような経費削減は「成長企業」へと上昇する原動力となります。では、従業員を満足させ、会社の将来につながる経費削減をするには、どういった点に気をつければいいでしょうか?
会社の売上を支える経費「任意のK」はケチるな
ここで改めて、会社の経費とは何かについて定義しておきます。経費とは、企業活動のために使われる必要経費のことで、利益の計算上は「損金」としてマイナス計上します。
コストダウンを考えるとき、一般的には「交際費」「広告宣伝費」「交通費」といった経費から優先的に削減が図られます。他にも「給与賃金」「光熱費」「研究費」「開発費」などが削られやすい経費です。いずれも頭文字がKになることから、私はこのうちの3つを指して3Kとか5Kなどという呼び方をしています。
たとえば、広告宣伝費は必ずしもお金をかけて行わなければならないものではありません。チラシや看板などを作らないで、口コミだけ、あるいは自作のホームページだけで勝負することも可能です。
得意先を接待するときの交際費なども同じです。お金をかけることもできるし、お金をかけないでもやろうと思えばやれるという意味で、広告宣伝費や交際費は会社の任意の部分が大きい経費です。また、従業員の給与については最低賃金が法律で決まっているにせよ、それ以外の要素は会社の判断や基準に任されています。
このように「会社の任意で決められる経費」のことを「任意のK」と呼んでいます。任意のKはコストダウンを考えるときに最も目にとまりやすい経費であり、削減できればその効果も大きいものです。しかし、これらは会社の売上を支える重要な経費でもあります。やみくもに下げることで従業員のやる気を削いだり、売上そのものを下げてしまっては元も子もありません。
大事なのは会社に委ねられた「任意のK」であっても、費用をかけるべきところにはかけるということです。ムダは省いても、ケチってはいけません。
では、広告宣伝費や交際費はいくらかけるべきかというのは、業種によっても、会社の規模によっても、事業を行う地域によっても、またビジネスモデルによっても変わってくるので、ここでは一概にいえません。会計やコンサルティングの専門家の意見を参考にして、個別に戦略を練る必要があるでしょう。
給与についても具体的にはいくらとは言い切れませんが、1つの目安としては、「比較対象より10%高め」が会社・従業員ともに満足が得られやすいようです。