日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

弁護士への社長の不満は「やめたほういい」助言

弁護士に対する社長の不満で多いのは、「弁護士に新規事業について相談すると、リスクばかり指摘されて、やめておけとアドバイスされる。こちらはどうやったらできるのかを知りたいのに」というものだ。弁護士にとって、「やめたほうがいい」というアドバイスは気楽なものだ。リスクが顕在化すれば「ほらね」となるし、リスクが顕在化しなければ「それはよかったですね」で終わる。「やめたほうがいい」というアドバイスは絶対に間違ったアドバイスにならない。でも、それでは中小企業の繁栄にはつながらない。

 

島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)
島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)

リスクといっても、カネで解決できるリスクもあれば、解決できないリスクもある。カネで解決できるリスクにしても、発生可能性が1%のものもあれば、99%のものもある。そういったリスクを細分化して冷静に判断することが、社長の相談役としての弁護士に求められるはずだ。少なくとも私の事務所では、「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」というサントリー創業者・鳥井信治郎のスピリットで社長とおつきあいしている。

 

リスクをゼロにするのではなく最小化するという発想

 

私の事務所では、これまでの労働事件の失敗を体系化して、トラブルが発生しない仕組み作りをコンサルティングとして導入している。すでに福岡県内をはじめとして複数の企業からご依頼を受けてきた。業種は自動車学校から食品会社までさまざまだ。いかに多くの社長が「労働トラブルのない強い組織」を求めているのかを改めて感じている。コンサルティングでは、次の3点をポイントにしている。

 

(1)潜在的リスクの整理

(2)リスク発生の防止

(3)発生したリスクへのフォロー

 

私たちは、とかくリスクをゼロにすることを目標にしてしまっている。いかにすればリスクの発生可能性がゼロになるかについて心血を注いで、そこで思考停止になっている。

 

しかしながら、現実の社会においてリスクがゼロになることは絶対にない。それにもかかわらず、「リスクはゼロになる」と信じているがゆえに、ちょっとしたことでもイライラして生きづらい社会になっている。

 

「リスクは最小化する。同時にリスクが具現化したときの対策を打っておく」という二枚腰こそ、社長の現実的なスタンスであるべきだ。

 

 

島田 直行
島田法律事務所 代表弁護士

 

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社長、辞めた社員から内容証明が届いています

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島田 直行

プレジデント社

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