「12/14~12/20のFX投資戦略」のポイント
[ポイント]
・先週にかけて、ユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルなどがこれまでのレンジを大きく上放れてきた。これが米大統領選挙後に一方向への大きな動きが広がるといった「アノマリー」が一因なら、短期間にユーロ/米ドルは1.25米ドル、豪ドル/米ドルは0.76米ドルを目指す見通し。
・これは、選挙前の小動きで溜まったエネルギーが、選挙後の「無敵の株高」というテーマを受けたリスクオンの米ドル売りとして発散された可能性がある。
米大統領選後、大きく動き出したドルストレート
米大統領選挙の後、為替相場は一方向への大きな動きになるプライス・パターンがあります。今年の選挙後には、米ドル/円はこれまでのところそういった傾向は見られていません。ただ、ユーロ/米ドルや豪ドル/米ドルといったドルストレートは、先週にかけてそれまでのレンジを大きく上放れてきました(図表1、2参照)。
このようなドルストレートの動きは、ファンダメンタルズでは説明しにくい面があります。たとえば、ECBは先週追加緩和を決めましたが、上述のようにユーロ/米ドルはユーロ高圏での推移となっています。また、このところ豪州にとって貿易関係が強い中国との関係悪化が目立っていますが、豪ドル/米ドルは豪ドル一段高となったわけです。
そんなユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルに共通しているのは、大統領選挙後に90日MA(移動平均線)±2%のレンジをブレークした方向に大きく動いているということです(図表3、4参照)。
これは前回、2016年の米大統領選挙後にも見られた現象でした。前回は選挙まで90日MA±2%での小動きが続いていたものの、選挙後にそのレンジを、方向こそ今回とは逆で下方向にブレークすると、ユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルともかい離率は短期間にマイナス5%前後へ急拡大となったのです(図表5、6参照)。
今年は2016年と方向は逆で、90日MA±2%のレンジを上方向にブレークし、大きく動き始めています。これが、前回同様にかい離率が短期間にプラス5%へ拡大する動きなら、ユーロ/米ドルは1.25米ドルを、豪ドル/米ドルは0.76米ドルを目指しているといった計算になり、実際に豪ドル/米ドルは先週までの段階で、すでに0.76米ドルに急接近となっているのです。
以上のように見ると、ユーロや豪ドルのファンダメンタルズからすると逆方向とすら感じられる最近にかけての大きな動きの一つの理由は、大統領選挙後は一方向へ大きな動きになるといった、これまでも繰り返されてきたプライス・パターン(「アノマリー」と呼びます)といえるでしょう。
ただそれでも、大きく動き出した方向がなぜユーロ高、豪ドル高なのかといった疑問は残ります。その謎をとく鍵は、米ドル安ということにあります。
なぜ米ドルは「一段安」となったのか?
米大統領選挙後の顕著な動きとして世界的な株高がありました。米国を始めとした世界の主要な株価指数は軒並み高値を更新、どんな材料にもことごとく買いで反応する「無敵の株高」の様相が広がりました。
3月の「コロナ・ショック」の株大暴落が一段落した後からは、株高、リスクオン局面では米ドル売りが目立つようになりました。その意味では、「無敵の株高」で米ドル売りが広がったのは理解できるところでしょう。
事実として、大統領選挙前はユーロ/米ドルも豪ドル/米ドルも、90日MA±2%といった狭い範囲での小動きが続いています。小動きが続くとエネルギーは溜まる、その溜まったエネルギーが選挙後に「無敵の株高」というテーマを受けて米ドル売りで発散されたこことから、米ドル安方向に大きな動きとなり、その裏返しとしてのユーロ一段高、豪ドル一段高ということなのではないでしょうか。
ではなぜ、米ドル/円は米ドル安方向への大きな動きとならないのでしょうか。
「コロナ後」の株高トレンドにおいて、米ドル/円は緩やかな米ドル安・円高が続いてきました。ユーロや豪ドルに対するより、円に対しての米ドル安のペースが緩やかだったのは、リスクオンでは米ドル売りと円売りが綱引きになり、一方的な米ドル安になりにくいためではないかとの見方がありました。
そうであれば、選挙後の株高のなかでも米ドル/円の米ドル安ペースが鈍いのは当然ということかもしれません。米ドル/円の緩やかな下落トレンドが変わるためには、むしろ株高トレンドの変化が必要だといえます。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長
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