他方で、親に対する扶養義務というものは、「生活扶助義務」というものです。これは、子が(妻子のそれを含めて)社会的地位相応の生活をおくった上で、なお余裕があれば、その限度で最低限の金銭的援助をすれば足りるものです。
したがって、夫としては、まず第一に妻と子供に自分と同程度の生活を保障した上で、余裕があれば、親の面倒を見て良い、というのが法律の建前なのです。
もっとも、以上はあくまでも原則であり、例えば、夫婦の別居前から親と世帯を同じくして生活の面倒をみていた、という場合には、親に対する扶養義務と、妻と子供に対する扶養義務は同列となります。
【判旨:大阪高等裁判所昭和62年1月12日判決】
「民法七六〇条の「婚姻から生ずる費用」とは夫婦が共同生活を維持することにより生ずる一切の費用をいい、この婚姻費用分担義務は夫婦の一方が他方及び未成熟子の最低生活を維持すればよいというものではなく、いわゆる生活保持の義務として、他方及び未成熟子の生活を自己と同一程度において保障すべき性質をもつものである。」
「したがつて、夫はまずもつて妻子に対し自身の収入と見合いかつ自己の生活程度と同程度の生活を保障すべきであるから、両親の生活扶助に関し夫婦の別居前から世帯を同じくし生活保持の義務に準ずべきものとなつていたなど特段の事情がない限り、自分がその社会的地位、職業にほぼふさわしい生活程度を維持しうる限度で扶養すれば足りる親に対する生活扶助の義務よりも優先して妻子の婚姻費用を分担すべきである。」
※本記事は、北村亮典氏監修「相続・離婚法律相談」掲載の記事を転載・再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所 弁護士
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