国際金融センター(IFC)としてのステータスへの影響
以下の点から、影響は限定的だろう。ただ本土依存は強まり、その中で引き続きIFCとして機能していくかは、中国が世界経済で果たす役割に左右されることになる。
【1】すでに制裁の影響が出ている香港貿易を、さらに縮小させる制裁は採り難い
香港の総輸出に占める対本土輸出シェアは近年60%、対米は6%。99%弱は再輸出のため、米国の制裁で影響を受ける香港製品は総輸出の0.1%未満。香港は米国にとって主要貿易黒字先(19年263億ドル)。20年1〜7月黒字額は78億ドル、前年比▼50%とすでに制裁の影響が出ており、さらに香港貿易を縮小させる制裁は採り難い。
【2】カレンシーボードを支える香港の外貨準備は潤沢
カレンシーボード(香港ドルを米ドルにペッグする制度)を支える香港の外貨準備は潤沢。香港ドルがペッグ上限で強含みのため、HKMAは本年8月までに40回、1320億香港ドル(170億米ドル)の香港ドル売り、米ドル買いの介入を実施し、これが米ドル外貨準備をさらに押し上げている(2020年3月末4370億米ドル、11月末4860億米ドル)。またHKMAは世界最大の外貨準備(近年3〜3.2兆ドル)を保有する中国人民銀行と通貨スワップ協定を締結しており、11月にはさらに協定を5年間延長し、その規模をこれまでの4000億元(4700香港ドル)から5000億元(5900億香港ドル)に引き上げた。
仮にペッグ先が人民元になった場合、香港が引き続きIFCとして機能するかは人民元の国際化の進捗に依存。例えばモルガンスタンレー20年9月リポートは、外国人投資家が保有する人民元資産は現在の2.8兆元(4000億米ドル)から30年3兆米ドル、各国の外貨準備に占める人民元割合は現在の2%から5〜10%へと増加し、人民元が第3の国際通貨になると予測。
【3】本土企業にとって、IPOの場としての香港市場は米国市場よりはるかに重要
香港の対内外直接投資に占める本土シェアは近年、各々3割(2位)、4割(1位)で(SAR統計処)、しかも、その投資のかなりは本土の外資優遇措置をねらった制裁と関係のない本土企業の迂回投資(中国商務部統計では、中国の対内外直接投資に占める香港の割合は各々7割、6割)。本土企業にとって、新規上場(IPO)する場として、すでに香港市場は米国市場よりはるかに重要。国安法で香港が政治的に安定するとの期待と対米関係の悪化で、今後さらに香港でのIPOが増えることが見込まれる。
【4】外国企業や国際的人材を引き付けるという点で、香港の優位性はなお大きい
2019年8月、党と国務院は深圳を習政権の看板「中国特色社会主義」の先行モデル地区にすると決定、20年10月、深圳経済特区設立40周年記念式典に前後して、その実施方案(20〜25年)、発展改革委の40項目授権清単(リスト)を発表。先端技術開発に関わる法整備、土地活用に伴う許認可、外国人専門家雇用などの面で深圳当局に大きな自主権を与え、株価指数先物の導入を含め、革新的企業のIPOを呼び込むための深圳証券交易所の改革を示し、大湾区建設における同市の「核心引擎功能(エンジン機能)」(注)を増強するとした。
20年6月、海南を自由貿易港に格上げするとの発表もあり、中国当局は深圳や海南で香港の機能を代替しようとしているとの憶測が根強い。しかし、国際的に認知された法制度、教育などの社会インフラ、低い税率など、外国企業や国際的人材を引き付ける点で香港が持つ優位性はなお大きい。上海がそうであるように、国際社会が本土都市を香港に代わる国際都市として認知するには相当の年数がかかる。
次期5カ年規画と35年遠景目標が議論された20年10月末の第5回党中央委員会全体会議(5中全会)コミュニケは最後の方で、香港について「香港とマカオの長期的繁栄と安定を維持しなければならない」とだけ触れた。これまでの各種文書に比べ簡素で、「香港の辺縁化(マージナライズ)」との憶測があるが、香港が主題の会議ではなく、また現下の情勢から、余計な議論を惹起したくないとの判断だったと思われる。
(注)実施方案の文言で、式典での習演説は「深圳は重要引擎」。実施方案は文脈から「深圳と香港の協力が核心引擎功能」と読むべきとの解釈もある(10月18日付米華字誌多維新聞)。習氏の広東訪問と記念式典での演説は、おそらく習氏が鄧小平改革路線と逆の方向に向かっているとの逆説的意味を込めて、本土外華字各誌上で1992年の鄧小平の「南巡講話」に対比し「習南巡」と呼ばれ注目された。
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