香港国家安全維持法(国安法)の施行以後、その影響は広範囲に波及しているが、「コロナ禍」という特殊要因がある中、香港経済全体の行方まで予想するのは困難だ。しかし、金融の領域については、香港の金融当局である香港金融管理局(HKMA)等の動向から見えてくるものがある。本記事では、香港国家安全維持法が香港の国際金融センターとしての役割にどのような影響を及ぼすのかを考察する。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

国安法の施行後に見られる様々な動き

香港国家安全維持法(国安法)が施行されてから、法に基づく検挙、米国を中心に対外面で様々な動きが見られる。中国・香港特別行政区(SAR)当局は当初、法に関係するのは国家転覆やテロ等を企てるごく少数の者と主張していたが、影響は広範に及んでいる。

 

主な例を挙げると次の通り。中国当局は法が単なる飾りではないことを早い段階で示したいということだろうが、運用はやや強引との受け止めが多い(『香港国家安全維持法、なぜか報道されない「歓迎の声」も多い』参照)。

 

①適用が非香港居民の香港外での行為にも及ぶとされたことから、先進国が相次いで香港との犯罪人引渡協定の停止を発表。他国に協定の停止を働きかけていた米国自身も、8月に国際船舶にかかる相互免税協定と合わせ停止。

 

②取り締まりが強化され、国安法違反以外の容疑も含め、検挙が相次いでいる。8月下旬、香港東南沖合で広東省海警が12名の香港人を不法越境容疑で逮捕、本土の司法管轄に置かれた。外交部は香港の本土からの分離を企んだ国安法違反容疑者がいるとしたが、内外で釈放または香港に送還しSARが処理すべきとの声。

 

③国安法は警察に対し、ネットプロバイダーに国安を脅かす犯罪行為に関わる顧客の情報提供を命令できるなど広範な権限を付与している。巨大ソーシャルメディアのうちグーグルが8月、顧客情報提供の要求は米国と香港当局間の「相互法律支援協定」に基づき、「外交チャンネル」を通じて行われるべきとの見解を発表。

 

④国安法42条は「容疑者が国安法を脅かす行為を続けることはないとの十分な根拠が得られない限り、保釈を認めず」と規定。実際に拘束された者がなかなか保釈されず、推定無罪の原則で保釈される慣例に反するとの指摘。

 

⑤国安法は司法の独立を脅かし、行政の司法への介入を招くとの懸念が出されていたが、9月、林鄭SAR長官が「香港に三権分立はない」と発言(後述)。

 

⑥11月、全人代常務委員会決定に基づき、香港立法会の民主派議員4名の議員資格がはく奪され、これに抗議して、他の民主派議員15名全員が辞表を提出。

 

⑦きわめて異例だが、林鄭月娥SAR長官は、10月に予定されていた就任後4回目となる施政報告を、中央政府の対香港優遇政策を確認するため北京を訪問する必要があるとして11月下旬に延期。施政報告の約半分は政治的言及で、国安法導入で香港社会が安定したとのメッセージを発出するなど、中央政府の対香港政策を繰り返すことに費やされた。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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