※本連載は、上谷さくら弁護士の著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。本連載に掲載する民法は2020年4月施行の改正民法の内容、そのほかの法令は2020年3月時点の内容に基づきます。

退職前に有給を全部消化したい…上司が却下したケース

Q1.「長く勤めた会社を退職する。有給休暇がたまっていたので、退職前に全部消化しようと申請したら、上司から却下された。」

 

⇒退職間際であっても、退職するまでは労働者としての権利があるので、有給休暇を取得できます。

 

有給休暇は、原則として、労働者の請求する時季に与えなければなりません。

 

例外として「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者が有給の時期を変更することができます。しかしそれでも、有休を取らせないことはできません。

 

<関連条文>

【労働基準法】第39条 年次有給休暇

5 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

退職の申し出は最短「2週間前」、雇用者の許可は不要

Q2.「正社員として勤務してきた会社。退職したいと上司に伝えたら『人手不足なのに辞めてもらっては迷惑だ』『自分勝手だ』などと言われ、辞めさせてもらえない。」

 

⇒正社員など期限の定めのない雇用契約の場合、民法では、労働者から退職の申し出をしてから2週間で雇用関係は終了すると規定しています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

会社側は、労働者の保護のため、労働者を自由に解雇することはできません。しかし、労働者の側はより自由に会社を退職することができます。

 

正社員(期間の定めのない雇用)の場合は、退職の申し出をしてから、2週間で雇用契約が解消されます(民法第627条)。使用者の同意はいりません。

 

ただし、就業規則で退職申し出の期間が定められている場合(退職日の3ヵ月前までに、など)には、それに従うほうがよいでしょう。この場合に、就業規則と法律の規定のどちらを優先すべきかは、実は考え方が分かれています。

 

契約社員など、期間の定めのある雇用契約の場合、従業員から期間途中で退職を申し出ることができるのは、次の場合です。

 

●雇用期間が1年以上の場合…最初の勤務開始から1年経過後は、使用者に申し出ることでいつでも(労働基準法附則第137条)

●最初の勤務開始から5年経過後…2週間前に予告することでいつでも(民法第626条)

●「やむを得ない事由」がある場合…いつでも(民法第628条)

●実際の賃金や労働時間など労働条件が、就職前の説明と異なる場合……いつでも(労働基準法第15条)

 

「やむを得ない事由」には、給料の未払い、残業代の未払い、労働者の心身の病気、親族の介護の必要または業務が法令に違反しているなどの場合があります。

 

退職の申し出る方法は、社内に退職届の様式などルールがある場合は、それに沿って行うほうがスムーズです。しかし、社内ルールに沿って退職の申し出を行ったのに応じてもらえない場合には、会社の代表者や人事部長などに宛てて内容証明郵便を発送して退職の意思表示をしましょう。

規定違反は30万円以下の罰金…「生理休暇」の権利

労働基準法は、民法の雇用契約分野における特別法として制定されたものです。その労働基準法に1947年に規定された制度が生理休暇です(第68条)。この規定に違反した者は、30万円以下の罰金に処されます(第120条)。

 

生理休暇は、生理の症状が重いために働けない女性のために、休暇を取ることが認められています。正規雇用・非正規雇用を問わず、女性労働者であれば誰でも請求できますが、生理だからというだけで休めるというものではありません。症状が重くて働けないことが条件です。また、生理休暇が無給か有給かについて法律上の定めはなく、会社次第です。

 

取得するのに、特に決まった手続きは定められていません。生理の周期が不安定な人もいますので、事前に日にちを指定する必要はありません。しかし、突然休まれると仕事に支障をきたす場合もありますので、日頃から互いに仕事をフォローできるように協力しておくのがよいでしょう。

 

<関連条文>

【労働基準法】第68条 生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置

使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

 

【民法】第626条 期間の定めのある雇用の解除

1 雇用の期間が5年を超え、またはその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。

 

2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは3ヵ月前、労働者であるときは2週間前に、その予告をしなければならない。

 

【民法】第627条 期間の定めのない雇用の解約の申入れ

1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

 

【民法】第628条 やむを得ない事由による雇用の解除

当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

【労働基準法】第15条 労働条件の明示(一部抜粋)

(略)明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

 

 

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上谷 さくら

弁護士(第一東京弁護士会所属)、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長

 

 

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おとめ六法

おとめ六法

著者:上谷 さくら

著者:岸本 学

イラスト:Caho

KADOKAWA

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