知的財産権は大丈夫?『鬼滅の刃』ブームの便乗商法
『「鬼滅の刃」興行収入275億円「タイタニック」超え、歴代2位に』―こんなタイトルの記事が2020年11月30日、毎日新聞のネットニュースで上がっていました。
人気漫画『鬼滅の刃』の劇場版アニメ映画の国内興行収入が275億1000万円に達し、公開開始からわずか45日間で『タイタニック』の262億円を抜いて、歴代2位となったという話題です(ちなみに1位は『千と千尋の神隠し』の308億円)。それも公開から10日間での100億円突破は史上最速というおまけ付きの記録となっており、コロナ禍においてこの記録はスゴイとしか言いようがありません。
新型コロナウイルスに関するニュースが騒がしいので、こうした報道もいつもに比べて少ない印象ですが、「『鬼滅の刃』は子どもに見せてもいいのか」とか「『鬼滅の刃』のヒット理由」など様々な記事がネット上にはあふれていて、世間の注目の高さがうかがえます。
私の活動領域であるマーケティング界隈では『鬼滅の刃』がヒットした理由を探る動きが盛んですが、私が注目しているのは『鬼滅の刃』ブームに関連したビジネス活動です。といっても、映画会社のPR活動やマーケティング戦略や公式グッズ販売の話ではなく、鬼滅ブームに乗っかった“便乗系”ビジネスのことです。
読者の皆さんもお気づきだと思いますが、『鬼滅の刃』のようなキャラクター商品には「公式」な商品・サービスと、「非公式」な商品・サービスの2つがあります。
巷では“鬼滅ブーム”の波に乗った「非公式」商品がたくさん売られています。簡単に調べられるのはマスクでしょう。楽天では「『鬼滅の刃』風マスク 子ども用」といった商品名でいろいろな柄やサイズが売られています。『鬼滅の刃』に登場するキャラクターが来ている着物と似たデザインのマスクだから“『鬼滅の刃』風”マスク。時節柄、子どもたちにマスクを面倒くさがらずに常用してほしい親の立場では、ついつい買ってあげたくなる商品です。
ではなぜ、「『鬼滅の刃』マスク」ではなく、「『鬼滅の刃』“風”マスク」なのか。それは知的財産権という法律があるからです。皆さんもきっと聞いたことのある、特許権、意匠権、著作権、商標権などが知的財産権と呼ばれるものです(図表1参照)。
『鬼滅の刃』の商標権は株式会社集英社が取得していますので、『鬼滅の刃』という言葉を商品名に付けることは、集英社の商標権を侵害する違法行為となります。なので、商標権を侵さないために「『鬼滅の刃』“風”マスク」としているのです。
社会的ブームにうまく便乗したビジネス展開は「アリ」
こうした知的財産権を意識した商品開発の例を見てみましょう。『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭次郎(かまどたんじろう)の妹で、竹の筒をくわえている画像が印象的な「竈門禰豆子(かまどねずこ)」を彷彿とさせる商品が話題を呼んでいます。高知県の株式会社土佐蒲鉾が作った緑色の「竹ちくわ」で、「禰豆子になれる緑色の竹ちくわ」とテレビや雑誌で紹介されていますから、見たことがある方もいるでしょう。
土佐蒲鉾の通販サイトで1個350円(税別)で販売されていて、商品説明には「今でしょう!! 緑色の竹ちくわ」「これで、ねずこになれます!」とは書いてありますが、商品名は「竹ちくわ」であり鬼滅の「き」の字も入っていません。
ここで「なるほど、我が社も鬼滅ブームにあやかった商品を作ろう」と安易に考えるのはいけません。そもそも、「XX風」とつければすべて大丈夫というわけではないですし、公式グッズと誤認するようなデザインの商品を作ってしまうと、権利を保有している側から商品名の取り下げや商品の販売停止の要請、さらには裁判で訴えられる可能性もあります。
しかし、私はこうした社会的ブームにうまく便乗したビジネス展開は、アリだと思います。「便乗ビジネス」と言われてしまうかもしれませんが、事業家は「使えるものは何でも使うぞ」くらいのしたたかさも必要でしょう。もちろん、法律など守るべきものをきちんと理解したうえで、実行することは言うまでもありませんが。
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