税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
【4】信託検討のポイントと検討課題
<信託のポイント>
①資産を保有する相談者はまだ自身で財産管理することができる。
②信託で財産管理をする場合、いつから信託を開始するのがよいか。
③受託者は誰にするのか、すぐに見つからない場合にはどうするか。
④委託者の死亡で信託を終わらせない。
<信託の内容>
①受託者を相談者とする自己信託とする
②受託者が管理できなくなった場合の後継の受託者をあらかじめ定めておく
③委託者が死亡した場合の受益権の帰属権利者は母、長男、二男に父が配慮して指定する
④二次受益者の母の死亡後母の元に行った受益権も指定することは可能
[1]受託者を相談者とする信託とする~自己信託
家族が受託者となる家族信託では、受託者となることのできる人物に限りがあり、その実行に課題があります。この事例では、4人家族のうち1人が障害者のため、受託者の候補者がより限定されます。そのため相談者本人が受託者となる自己信託の形式を検討し採用しました。
自己信託は、信託宣言ともいわれ、その設定の方法はこれまで説明してきた信託契約の方法とは異なります(信託法3③)。信託法施行規則3条には、自己信託に係る公正証書等の記載事項等の定めがあります。
信託法163条では、受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したときに終了することになります。そのため、相談者が受託者となる信託(自己信託)では、すべての受益権を有しないことが必要となります。そこで、受益権の一部については将来受益権を取得する予定の長男に贈与することが考えられます。相談者が、自身で財産管理することが難しくなってきたときに信託を設定するのがよいかもしれません。しかし、それはいつ訪れるのか答えは誰にもわかりません。
突然、相談者が財産管理できなくなることも考えられます。万が一が生じたときにどうするのかと考えるのではなく、あらかじめ対処しておく必要があります。自己信託を活用すれば、受託者はこれまで行ってきた不動産管理業務を継続すればよいので、信託財産の管理において新たな業務負担は少なくて済みます。
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[2]後継の受託者をあらかじめ定めておく
障害を持つ方を受益者とする信託では、より安定した信託の仕組みが必要です。家族信託では、家族の状況や財産を所有する人の意向にあわせて柔軟にその仕組みを検討することができ便利な仕組みです。しかし、多くの家族信託では、受託者を家族の中の特定の個人が担うことが多く、その場合、受託者の死亡リスクがあり安定性に課題があります。受託者が亡くなることにより後継の受託者が速やかに決定されない、または不存在のため終了することがあると、障害を持つ方への信託収益の給付が途中で打ち切られることとなり、信託の目的を達成することができません。
そこで、後継受託者が重要となります。将来、相談者が認知症になり認識する力が大変弱くなる可能性があり、受託者の業務ができなくなることが予想されます。
二男にこれから先ずっと長男の面倒を見ていくことの覚悟があるかを確認しました。
二男に覚悟があることがわかりましたので、信託契約に二男が後継の受託者であることを定めておきます。
受託者の業務能力の低下を客観的なデータで示されたとき、または受託者の辞任により受託者が二男に替われるようにしておきます。客観的な方法として、医師の診断書によるような測定方法などを活用することもひとつの方法です。
[3]何を信託財産にするのか
相談者の財産のうち多くを占めるのは不動産です。アパートを建築したときの借入金が残っているのでネットの財産額は少なくなりますが、アパートは一定の賃貸収入が見込めるため、不動産を維持することは現在の低金利の環境では必要なことです。賃貸アパートとその土地を信託財産としておけば、将来、受託者が不動産を売却することも可能と考えています。
[4]借入金が金融機関に残っている場合
金融機関に建築資金の残債務がある場合に、信託を設定するには金融機関の承認が必要となります。信託の設定も譲渡になりますので、買入債務の期限の利益を喪失することになります。一括返済というリスクがありますので、借入金融機関には事前の相談が必須となります。
[5]商事信託とのコラボレーション
障害を持つ方を受益者とする信託では、信託銀行や信託会社を受託者とする商事信託の活用も検討する課題です。信託銀行や信託会社が受託者の場合、障がい者を受託者とする信託には贈与税の非課税措置があります。
「特定贈与信託」は、特定障害者(重度の心身障害者、中程度の知的障害者及び障害等級2級または3級の精神障害者等)の方を受益者として、その方の生活の安定を図ることを目的に、その親族等が委託者となり金銭や有価証券等の財産を信託銀行等の受託者に信託するものです。障害を持つ方への安定した信託収益の交付を目的とする場合、信託銀行や信託会社を受託者とする信託の検討をお勧めします。
残念なことにこの制度は信託銀行か信託会社でしか利用できません。また、信託財産は制限があり、すでに建築されている不動産を信託財産とすることは、現状ではほぼ受託されていないようですから、事前に信託銀行や信託会社に確認することが必要です。
成田 一正
税理士法人おおたか 代表社員
公認会計士・税理士・行政書士
石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役
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