「家」が財産となる時代は終わりを告げた。これから都心部でも確実に起こるニュータウンを中心とした戸建て住宅の財産価値の崩壊。日本人が「家」に抱いてきた「財産」という価値観が根底から崩れていくという。本連載は多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)から一部を抜粋し、住宅街が抱える問題と対策を明らかにします。

首都圏郊外でも始まった激しい高齢化現象

これまで、埼玉や千葉、神奈川といったエリアでは、東京で膨大に膨れ上がる経済活動を担うサラリーマンたちの受け皿として多くの住宅供給がなされてきました。この役割に今微妙な変化が訪れ始めているのです。

 

牧野知弘著『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)
牧野知弘著『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)

空き家の増加です。

 

一口に空き家といっても、その種類は大きく分けて「賃貸用」「売却用」「二次的」「その他」の4つに分類されます。「賃貸用」空き家は文字通り、賃貸アパートや賃貸マンションなどの賃貸用不動産の空き住戸を指します。また、「売却用」は売却のために一時的に空き家にしているもの、「二次的」とは別荘のように二次的な目的で利用している住宅の空き家、そして「その他」が、一般個人などが所有する持家の空き家を指します。

 

今、問題が顕在化しているのが、最後の「その他」住宅の空き家です。

 

下のグラフは、2003年から2013年における、首都圏での「その他」住宅の空き家数を、2003年を100として指数化したものです【図表③】。

 

 

 

これによれば、この10年間で、東京を除く、神奈川、埼玉、千葉の3県で個人の持ち家の空き家数が、どの県も50%程度の伸びと、激増している姿がおわかりいただけると思います。

 

これまで、この3県は東京に通うサラリーマンの「住処」として人口は伸び続け、東京とつながる鉄道網の延伸に応じて、住宅開発が進み、世帯数は大いに伸び、県の財政も潤ってきました。

 

ところが、東京が都心居住の推進で空き家数を減らすいっぽうで、3県については空き家が急増する事態に陥っているのです。

 

その背景にあるのが、首都圏郊外における激しい高齢化現象です。首都圏郊外で育った子供たちは、都心に居を構えるようになり、取り残された両親は郊外住宅で余生を送る。やがて、高齢者施設や病院のお世話になる。空き家になる。そのとき、もはやこの家族が育った楽しい我が家を、引き継ぐ者はいない。人口が増える要素のないところでは、「借り手」も「買い手」も見つからないということなのです。

 

郊外へ郊外へと思い切り拡大してしまった戸建て住宅街は、どうやら今後大きな岐路に立たされる、そんな時代が到来しようとしているのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

 

 

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