弁護士法人みずほ中央法律事務所・司法書士法人みずほ中央事務所の代表弁護士である三平聡史氏は『ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表』(日本加除出版)のなかで、富裕層の離婚問題について様々な事例を取り上げ、解決策を提示しています。

【離婚成立】平均額よりも上乗せされた背景。実は…

<合意成立のポイント>

1 有責性配偶者からの離婚請求という枠組み

本ケースは、夫は有責配偶者に該当するので、夫からの離婚請求は原則として認められず、例外となる要件を満たすかどうかが理論的な問題となったケースです。

 

まず、夫婦の間の子はすでに成人していたので、未成熟子はいない状態でした。次に、夫から妻への経済面でのサポートについては、過去(婚姻費用の支払実績)と将来(清算的財産分与と扶養的財産分与の提供の提案)の両方について、標準的なものよりも大幅に上乗せされた条件となっていました。

 

2 経済的サポートの内容

(1)過去の婚姻

費用支払額まず、過去の婚姻費用の金額は、基礎収入割合修正方式を用いた標準算定方式によって計算します。夫の年収は標準算定表の上限年収(2000万円)を3000万円超過していたので、上限年収における38.19%から約5%を下げて33%として計算しました。計算結果は次のように月額69万円となります。

 

【標準的な婚姻費用の計算】

基礎収入割合:約38.19%→5%下げた→33%

夫の総収入(給与所得)5000万円×基礎収入割合33%=1650万円

夫の基礎収入1650万円×生活費指数の比率100/(100+100)=825万円

(妻の基礎収入ゼロのため、この金額が婚姻費用年額となる)

婚姻費用年額825万円/12≒69万円

 

実際に過去に夫から妻に支払われていた生活費(婚姻費用)は月額80万円だったので、標準的な金額より11万円を上乗せしていたことになります。

 

(2)清算的財産分与の提示

夫は、離婚の条件として、清算的財産分与として、最終的には、不動産に加えて株式・債券も提供することを承服しました。合計8000万円相当となります。仮に妻の寄与割合を原則の50%のままとしても、標準的な計算を行うと、夫婦共有財産全体(9000万円)の半分である4500万円相当となるはずです。つまり、標準的な状態よりも、少なくとも3500万円を上乗せしたことになります。

 

(3)扶養的財産分与の提示

また、夫は、扶養的財産分与を離婚後の10年間は支払うことを提案しました。提案としては、標準的算定方式によって婚姻費用の金額を決めるというものでした。婚姻費用の算定においては、当時誕生した子の扶養義務も反映させるという内容でした。次のような計算により、月額54万円となります。

 

【婚外子を反映させた婚姻費用の計算】

夫の基礎収入1650万円×生活費指数の比率100/(100+100+55)≒647万円

婚姻費用年額647万円/12≒54万円

 

本来は、離婚後には(元)夫婦間の扶養義務はないので、生活費の負担義務(扶養的財産分与)はないのが原則です。つまり、月額54万円を10年間負担することは、標準的な状態よりも上乗せした経済的負担であるといえます。

 

3 経済面と精神面からの合意成立

以上のような事情により、裁判所は、判決となった場合には離婚を認容するという心証を開示しました。最終的には、夫・妻側が相互に細かい条件の譲歩をして、合意に至りました。実際には、純粋に夫が妻に感謝の気持ちを強くもっていたことに加え、仮に婚姻関係が維持された場合、将来、夫の特有財産も含めて妻が相続により半分を取得するということも想定できたことが、夫側の積極的な経済的支援の提案につながっていると思われます。

 

 

 

三平 聡史

弁護士法人みずほ中央法律事務所・司法書士法人みずほ中央事務所 代表弁護士

 

 

 

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本連載に掲載しているケースは、解決に至った事例を基にして、その一部を変更し、また複数の事例を組み合わせてまとめたものです。もちろん、同種案件の処理において参考となるよう、本質的な判断のエッセンスは残してあります。一方で、判断プロセスや解決結果にはほとんど影響を及ぼさない事情については記載を省略しています。なお、ケースの背景事情等については、あくまで架空の設定であることをおことわりしておきます。

ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表

ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表

三平 聡史

日本加除出版

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