本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●日本円は対米ドルで円高、対ユーロでは円安、対豪ドルでもやや円安、対ポンドで円高の動きに。

●円相場からリスク選好度合いを判断する際はドル円だけでなくクロス円の為替レートも検証が必要。

●日本円は現在強くも弱くもない通貨、実質実効ベースでは円高だがこれは貿易分析に用いるもの。

日本円は対米ドルで円高、対ユーロでは円安、対豪ドルでもやや円安、対ポンドで円高の動きに

今回のレポートでは、日本円に焦点をあて、主要通貨に対する強弱感を検証します。はじめに、ドル円からみていくと、昨年末は1ドル=108円61銭水準(ニューヨーク市場終値、以下同じ)でしたが、昨日は104円46銭水準でしたので、対米ドルでは「円高」が進行したことになります。次に、米ドル以外の通貨と日本円のペアであるクロス円について、ユーロ円、豪ドル円、ポンド円の順に為替レートを確認していきます。

 

ユーロ円は、昨年末が1ユーロ=121円77銭水準、昨日は124円47銭水準でしたので、対ユーロでは「円安」が進んでいます。豪ドル円は、昨年末が1豪ドル=76円24銭水準、昨日は76円94銭水準でしたので、対豪ドルでもわずかに「円安」です。ポンド円は、昨年末が1ポンド=144円07銭水準、昨日は139円79銭水準でしたので、対ポンドでは「円高」です。

円相場からリスク選好度合いを判断する際はドル円だけでなくクロス円の為替レートも検証が必要

もう少し詳しく、他のクロス円の動きについても確認してみます。昨年末と昨日の為替レートを比較して、「円安」が進行した通貨は、スウェーデンクローナ、デンマーククローネ、フィリピンペソなどです。一方、「円高」となった通貨は、カナダドル、ノルウェークローネ、インドネシアルピアなどです。ここまでの動きをまとめると、図表1の通りになります。

 

ドル円だけに注目してしまうと、「ドル安・円高が進んでいるので、市場はリスクオフ(回避)の状態にあるのではないか」と考えがちですが、円相場から市場のリスク選好度合いを判断する際は、ドル円だけでなくクロス円の為替レートも検証する必要があります。実際、前述のように、クロス円では「円安」の動きもみられ、少なくとも強いリスクオフを示唆する「日本円の全面高」という状態にはないことが分かります。

日本円は現在強くも弱くもない通貨、実質実効ベースでは円高だがこれは貿易分析に用いるもの

なお、クロス円の為替レートは、例えば「ユーロ円」であれば、「ドル円」と「ユーロドル」の為替レートを掛け合わせて計算します。そのため、ドル円で「円高」が進行し、ユーロドルの為替レートが「不変」なら、ユーロ円でも「円高」が進行します。ただ、昨年末から昨日まで、ドル円は「円高」、ユーロ円は「円安」でした。これは、ユーロドルで大幅な「ユーロ高」が進んだことによるものです。

 

以上より、日本円は現在、対主要通貨で「強くもなく弱くもない」立ち位置にあるといえます。しかし、相対的な通貨の実力を測る実質実効為替レートでは、昨年末以降、日本円の強さが幾分みられます(図表2)。実質実効為替レートは、日本円と全対象通貨との為替レートを貿易額などでウエイト付けし、それぞれの物価変動分を調整して算出します。そのため、一般には市場のリスク選好度合いの判断ではなく、貿易収支の分析に用いられます。

 

(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]主要通貨の対円騰落率 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

(注)データは2019年12月から2020年10月。国際決済銀行(BIS)が公表している円の実質実効為替レート(Broad indices、2010年=100)。 (出所)BISのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]円の実質実効為替レート (注)データは2019年12月から2020年10月。国際決済銀行(BIS)が公表している円の実質実効為替レート(Broad indices、2010年=100)。
(出所)BISのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『円相場の現在の立ち位置』を参照)。

 

(2020年11月26日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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