●ワクチンの開発進展や米政権移行作業の開始を好感し、ダウ平均は終値で3万ドルの大台乗せ。
●米国では12月上旬にもワクチン接種が始まり、GSAの政権移行作業容認で政治空白は解消へ。
●ただ株高を支えるのは流動性相場であり、この環境が変われば深刻だが来年以降のリスクであろう。
ワクチンの開発進展や米政権移行作業の開始を好感し、ダウ平均は終値で3万ドルの大台乗せ
ダウ工業株30種平均は11月25日、前日比454ドル97セント(1.5%)高の30,046ドル24セントで取引を終え、史上初めて3万ドルの大台に乗せました。S&P500種株価指数も同1.6%高の3,635.41ポイントで終了し、史上最高値を更新しました。また、ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は同1.3%高と、9月2日につけた史上最高値(12,056.44ポイント)まで、あと20ポイントほどに迫りました。
背景には、①複数の製薬会社からワクチンの開発進展が報告され、経済活動が正常化に向かうとの見方が強まっていること、②米連邦政府一般調達局(GSA)がバイデン氏に政権移行作業の開始を認め、バイデン新政権の本格始動に対する期待が高まっていること、があると思われます。これらが投資家心理の改善につながり、同日の米国株式市場では幅広い銘柄に買いが入りました。
米国では12月上旬にもワクチン接種が始まり、GSAの政権移行作業容認で政治空白は解消へ
ワクチンの開発に関しては、11月に入り複数の企業から進展の報告がありました。具体的には、米製薬大手のファイザー(9日)、米新興製薬企業のモデルナ(16日)、英製薬大手のアストラゼネカ(23日)です(図表1)。すでにファイザーは11月20日、米食品医薬品局(FDA)にワクチンの緊急使用許可を申請しており、早ければ12月11日にもワクチンの接種が始まります。
米政権移行については、その権限を持つGSAがバイデン氏の勝利を認定していなかったため、バイデン氏の政権移行作業は遅れていました。しかしながら、GSAのエミリー・マーフィー局長は11月23日、移行作業の容認をバイデン氏に書簡で伝えました。これにより、バイデン氏と政権移行チームは、最新の機密情報や約730万ドルの移行予算を使えるようになり、政治空白は解消に向かうことになります。
ただ株高を支えるのは流動性相場であり、この環境が変われば深刻だが来年以降のリスクであろう
改めて相場の特性を考えると、ワクチン開発と政権移行という材料は、時間の経過とともに、相場の押し上げ効果が逓減する短期的なものと判断されます。そのため、すぐに次の新しい好材料が出れば上昇は継続、出なければ上昇は一服、想定外の悪材料が出れば、過熱感がある分、大きめの調整、という展開が見込まれます。これは、米国株だけでなく、日本株にもあてはまると思われます。
なお、現在、日米欧をはじめ主要中央銀行は積極的な金融緩和を実施していますが(図表2)、これが流動性相場を形成し、各国の株式相場を支えています。この環境が一変するのは、世界的にワクチンが普及して経済活動が正常化に向かい、株式市場が金融緩和の修正を意識し始めた時点と考えます。株式市場にとって、かなり深刻な展開が予想されますが、来年以降のリスクシナリオとみています。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ダウ平均が終値で3万ドルの大台を突破』を参照)。
(2020年11月25日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト