和歌山県にある動物のテーマパーク、「アドベンチャーワールド」は、世界最大の旅行口コミサイトで「日本一の動物園」に選ばれるなど、国際的に高い評価を受けています。祖父、父に続いてアドベンチャーワールドの運営会社社長となった著者は、同園が高評価を得る理由の一つに「社員がいきいきと働いていること」を挙げています。その素地となったのが「理念経営」の導入。「社員一人ひとりが自ら考えて行動できるマネジメント」を実践するには、どうすればいいのでしょうか? アドベンチャーワールドが変化するきっかけとなった「転機」を、リアルなエピソードとともに紹介。※本連載は、山本雅史氏の著書『笑顔あふれるテーマパークの秘密』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

「社員が協力してくれない…」3代目社長の焦り

父が社長に就任した当時のアドベンチャーワールドは、イベントのほとんどを外部委託していました。国内外からパフォーマーを招へいし、ショーを提供していたのです。当時のゲストに好まれるイベントではありましたが、アドベンチャーワールドでなければ見られない特別なものではありませんでした。

 

立地の良さや利便性で劣るアドベンチャーワールドに、たくさんの人に来てもらうにはどうすればいいのか。当時、仕事に取り組む中で私の軸となっていたのは「ゲストに満足以上の感動・感激を提供する」という父からの教えでした。

 

そのためには、オンリーワンの商品やサービスを創り出す必要がある。アドベンチャーワールドにしかない強みを磨き上げて、一度来ていただいたゲストにファンになってもらい、何度も来ていただけるようにしなければいけない――それがパークのためにこれからすべきことだと考えたのです。

 

一例を挙げると、私が発案したイベント企画に「BBQ with Dolphin」というものがありました。イルカが泳ぐプールの横で、イルカが食べる魚をバーベキューにして楽しもう、そしてイルカに親近感を持ってもらおうというコンセプトです。ほかにも、サファリで「ライオンと一緒にバーベキュー」など、一風変わったイベントを考案するようになりました。

 

しかし、いざスタッフに依頼して実施してみるものの、それらのイベントが長続きすることはありませんでした。しばらくするといつの間にか終わってしまっている…。また、提案の時点で協力者がいない…。そんなことが繰り返されていたのです。

 

「アドベンチャーワールドらしさを出していかないと」と危機感を持って取り組む自分に対し「社員の皆さんはそうではないのか…」そんな思いを抱き、厳しい言葉を使ったり、きつい態度を取ったりしたこともありました。

 

社員からすると「どうしてあんなに焦っているのだろう」と思っていたかもしれません。何かをしなければと動く私に対し、抵抗感もあったのだと思います。

 

当時の私は、自分なりの経営スタイルを模索していた時期でもありました。そこから生まれる焦りや気負いから「どうしてみんな分かってくれないんだろう?」と周りに求めてばかりいたのです。

「戦略より大切なのは…」スタバ元CEOが拓いた活路

「周りが理解してくれない」

 

そんな思いを抱いたことのない人は、おそらく一人もいないはずです。自分がなんとかしなければならないと懸命になっているとき、周りの理解がなかなか得られず一人で苦しみ、思い悩んでしまう…。

 

社会に出ると、そのような状況に出くわすことは少なくありません。

 

「一生懸命やっているのに、周りが認めてくれない」

「自分の考えるとおりにすれば、絶対にうまくいくのにだれも協力してくれない」

「やりがいのある仕事がしたいのに、それをさせてくれる環境じゃない」

 

当時の私もまさに同じような状態でした。たくさん悩み、苦しみました。しかし今あらためて振り返れば、それはあまりに自分本位な悩みであったと思うのです。

 

「何かをしなければ…」そう焦る私に対して、社員たちから自発的な改善案が出てくることはありませんでした。それどころか私が焦れば焦るほど、社員たちの自発的な意見は聞こえなくなりました。私の悲壮な危機意識のせいで、社員の自発性が抑えられていったのです。そして私以上に、周囲の社員の皆さんは、私の言葉や行動によって傷ついていたはずです。

 

私がそのことに気づくことができたのは、スターバックスコーヒージャパンの元CEO岩田松雄氏の講演に参加したことがきっかけでした。

 

「ミッション」と題されたその講演で岩田氏は「経営において大切なのは、戦略ではなく社員一人ひとりが自ら考えて行動できるマネジメントである」と話されていたのです。

 

なぜ、スターバックスがあれほどまでに世界を席巻したのか。この問いに対して岩田氏は「コーヒーがおいしかったからでも、ちょっと店内で座りたい欲求を満たしてくれたからでもない」と話されていました。確かに顧客は最初に飲んだスターバックスの味に新鮮さを感じたかもしれない。落ち着いた席に座れて満足したかもしれない。しかしスターバックスの提供している価値の本質は、そこではないと話されていたのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

スターバックスの顧客は2回、3回と店舗に足を運ぶうちに、このコーヒーショップに対してある疑問を抱くはずです。

 

「なぜ私たちは、もっと価格の安いコーヒーをほかでも飲めるのに、わざわざスターバックスに行ってしまうのか」

 

この疑問に対する答えを岩田氏は「スターバックス・エクスペリエンス(スターバックスならではの体験)」と表現していました。

 

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★だれもがキラボシ★ 〜笑顔あふれるテーマパークの秘密〜

★だれもがキラボシ★ 〜笑顔あふれるテーマパークの秘密〜

山本 雅史

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の動物園ランキング2018で第1位を獲得。和歌山県のテーマパーク「アドベンチャーワールド」が選ばれたワケとは? アドベンチャーワールドは動物園、水族館、遊園地を併せ持つ、全国でも類を見ないテーマパークで、累計…

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