「自分には理念がなかった」根本的な欠落を自覚
先輩経営者の誘いを受け、理念経営について学ぶ二泊三日の研修プログラムに参加した私ですが、そこでは企業理念云々の前に、まず自分自身の理念が確立しているかどうかについて問われました。
「あなたにとって大切なものは何か?」
「あなたは何のために生きているのか?」
当時の私は、何も答えられませんでした。というのもこれまでの人生の中で、そうした問いかけを自身にしたことがなかったからです。漠然とした考えはあったものの、深く考える機会がなかったことに気づかされました。
研修プログラムでは、自身の「理念」を言葉にすることを求められました。理念とは人生においての判断軸であり、目的(パーパス)やミッション(使命、存在意義)のことです。研修が行われる二泊三日の間、私はずっと理念について考え続けていました。
自分にとって何がいちばん大切なのだろう――。
自分は何のために生きているのだろう――。
この問いに答えられない事実が、これまで自分は理念を持たずに生きてきたという事実を突きつけてきました。そんな自分に、理念経営などできるはずがありません。もし仮にできたとしても、それは表面的なものになってしまうでしょう。
それまで会社のこと、アドベンチャーワールドのことをだれよりも考えているのは自分だと思い、理解してくれない周囲に求めてばかりいた私でしたが、実は自分自身がいちばん大切にしたいものを明確にしてこないまま生きてきたということが明白になったのです。
盤石だと思っていた足元が揺らぎ崩れる…というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、まさにそのような思いでした。
「周りの人を笑顔に」シンプルな理念にたどり着く
自分は何を大切にして、何のために生きているのか――。その問いに対する答えは、研修三日目の朝に訪れました。
「自分に関わるすべての人を笑顔にする、幸せにする。そのことで私は喜びを感じるし、生きがいを覚える――」
自分自身と深く深く向き合うことでこの答えにたどり着いたとき、これ以外にはないと思えるほど、自分の中で腑に落ちたのでした。それまでは祖父や父と比較したり、無意識に意識し過ぎたりしてしまっていたことで、むやみにプレッシャーを感じ、過度に気負っていたことにも気づかされました。
しかしそういった余計なものをすべて取り除いたとき「周りの人に笑顔になってもらいたい」「幸せになってほしい」というシンプルな思いが、自身の奥深くにあることに気づいたのです。そしてさらに、自分自身を大切にすることが自分を大切にしてくれる人の幸せにつながっているということにも気づいたのでした。
その瞬間、私は自分に変化が訪れたことを確信しました。いえ、もしかするとそれは変化というよりも、本来の自分に立ち返ったと言ったほうが正しいのかもしれません。ともあれ、自身の中に明確な「理念」が定まった瞬間でした。
山本 雅史
株式会社アワーズ 代表取締役社長
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