●米財務長官は、緊急支援制度の一部打ち切りをFRBに要請も、FRBは継続が望ましいとの立場。
●FRBの主張は理にかなうが、財務長官は打ち切りによる余剰資金を追加経済対策に充てる考え。
●両者の対立は好ましくないが、余剰資金活用に加え安全策の用意もあり、市場の混乱は回避へ。
米財務長官は、緊急支援制度の一部打ち切りをFRBに要請も、FRBは継続が望ましいとの立場
ムニューシン米財務長官は11月19日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長宛に書簡を送りました。内容は、「CP資金調達制度、Commercial Paper Funding Facility(CPFF)」など、4つの流動性支援制度について90日間の延長を求める一方、「発行市場企業信用制度、Primary Market Corporate Credit Facility(PMCCF)」など、5つの制度の打ち切りを要請するものです(図表)。
打ち切りが要請された5つの制度は、3月に成立した米緊急経済対策「CARES法(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法)」の資金を使用した制度です。ムニューシン氏は、改めて同制度の期限(12月31日)に言及し、未使用の資金を財務省に返還するよう要請しています。これに対しFRBは、経済がまだ脆弱であり、すべての支援制度は継続が望ましいとの見解を明らかにしました。
FRBの主張は理にかなうが、財務長官は打ち切りによる余剰資金を追加経済対策に充てる考え
米財務省とFRBは、春先にコロナ・ショックで金融市場が動揺した際、協調して積極的に多くの流動性支援制度を打ち出してきました。そのため、今回、同制度を巡る両者の対立が表面化したことは、市場にとって基本的に好ましいことではありません。また、米国では新型コロナウイルスの感染拡大が加速しており、この状況を勘案すれば、FRBの主張は理にかなっていると思われます。
ただ、ムニューシン氏も、単に支援制度の一部を打ち切ると言っている訳ではありません。書簡では、一部支援制度の終了によって、財務省に余剰資金が4,290億ドル発生するため、これに未使用の財務省直接融資資金260億ドルをあわせた4,550億ドルを、議会に再配分できると述べています。つまり、この再配分を追加経済対策の原資に充てることが可能ということになります。
両者の対立は好ましくないが、余剰資金活用に加え安全策の用意もあり、市場の混乱は回避へ
また、ムニューシン氏は、将来これらの制度の再構築が必要になった場合、FRBは財務長官の承認を要請することができ、承認が得られれば、法律で認められている範囲内で資金を調達することが可能という、「バックストップ(安全策)」も、書簡に盛り込んでいます。なお、今回対象となった5制度については、財源の権限が財務省にあるため、書簡では要請という形になっていますが、打ち切りは確実です。
今回の書簡が市場に与える影響について考えた場合、前述の通り、米財務省とFRBの対立が表面化したことは、決して好ましいものではありません。ただ、①一部制度の打ち切りによる余剰資金が追加経済対策に充当される可能性があること、②FRBが必要に応じて再申請できるバックストップが設定されていること、を踏まえれば、大きな混乱には至らないとみています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米財務省とFRBの対立が表面化?』を参照)。
(2020年11月24日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト