作戦大成功のはずが…Bさんが「墓穴を掘った」ワケ
しかし、皮肉なことに、このような策略が逆にBさんの墓穴を掘ることとなったのです。
成年後見の申立ての際、裁判所に、父親が認知症で心神喪失状態にあることを明らかにするため、Bさんはその旨を診断した病院のカルテを提出していました。そこで、Aさんの依頼を受けて、事例の代理人を務めていた私は、父親の診断を行った病院に対して、カルテの開示を求めました。
カルテを見ると、認知症の判定でよく利用される長谷川式簡易知能評価スケールと呼ばれる知能検査が行われており、その採点結果は零点でした。自分が何歳であるか、診断を受けた日が何日かもわからないほどで、父親が読み書きすらできない状況となっていたことは明らかでした。
しかも、この診断が行われたのは公正証書遺言作成日のまさに前日。つまり、父親が遺言書に書かれていることを理解することができない状態であるにもかかわらず、公正証書遺言は作成されていたのです。
そこで、私たちは訴訟で「父親はとうてい遺言書など作成できない状態だったのだから、公正証書遺言は無効である」と主張したのです。
この主張は認められ、第一審裁判所は、公正証書遺言は無効であるとの判断を示しました。公正証書遺言が無効とされることは非常に珍しく、ほとんど例がありません。そのような意味において、これは実に画期的な判決でした。
もっとも、自筆証書遺言の無効までは判断してもらえなかったので控訴し、二審では、Bが、心神喪失状態に陥っていた父親に公正証書遺言を作成させたのは、遺言書の偽造にほかならないという主張を行いました。
遺言書の偽造は相続の欠格事由に当たります。したがって、こちらの主張が認められれば、Bさんは相続人としての資格を失うことになるはずでした。
この訴訟戦略は、みごと功を奏しました。「このままでは相続財産をすべて失うことになる・・・」と不安に思ったBさんは和解に応じ、依頼人に有利な形で訴訟を決着させることに成功したのです。