いつの時代もなくならない相続トラブル。特に、故人の財産に不動産が含まれる場合、納税の際に大きな問題が発生してしまいます。そこで本記事では、『円満相続をかなえる本』(幻冬舎MC)より、具体的な事例と解決策を紹介します。

弟の主張を調べていたら意外な事実が判明。結果は…?

[図表]

 

そこで私は、対象土地は建物を新たに建築することができず、購入を検討する需要者が非常に限定されると考え、通常の土地よりも大幅に減価した鑑定評価額を結論づけました。

 

その結果、弟のLさんの主張ほどには、KさんとLさん2人の相続財産の価格差がないことがわかり、Kさんは、当初要求された額よりもずっと少ない額を支払うだけで、事を収めることができました。

 

事例2:過去に生前贈与された土地の評価

 

先日お父様を亡くされたMさん、お母様はすでにお亡くなりになっていたので、お父様の遺産を弟のNさんと分割することとなりました。

 

遺産の大部分は、Mさんがお父様と同居されていた戸建住宅と預貯金でした。戸建住宅はMさんが相続し、預貯金はNさんが相続する方向で考えていましたが、戸建住宅の価格に対し、預貯金の額は少額だったため、分割協議が難航し、調停に進むこととなりました。一方でNさんは、お父様の生前に、自宅とは別の土地の贈与を受けていました。

 

そこでMさんは、生前にNさんが贈与を受けた土地を、特別受益として相続財産に組み込んだうえで(生前贈与の持ち戻し)、遺産分割協議を進めることとしました。つまり、相続財産(みなし相続財産)は戸建住宅と預貯金、そしてNさんが生前に贈与を受けた土地であるとして、それらを等分するよう主張したのです。

 

「預貯金の額はすぐにわかるのですが、より高額な戸建住宅と生前贈与の土地の価格についてはよくわからないし、いい加減な額を主張することもできないので、不動産鑑定評価を使って適正な価格を知りたい」とのご相談でした。

 

戸建住宅については、一般的な不動産鑑定評価の範疇(はんちゅう)でしたので、しっかりと対応できる旨を即答しましたが、土地については過去時点ということで、適正に評価ができるかどうかお調べし、改めてご回答することとしました。というのも、過去時点の鑑定評価については、場合によっては鑑定評価に必要な資料が取得できないため、適正な手順で鑑定評価を行なうことができず、お断りせざるを得ないことがあるためです。

 

本件については、贈与されたのが10年前と大昔の話ではないこともあって、評価に必要な資料が十分に取得できる目途が立ち、不動産鑑定評価をさせていただきました。その結果、遺産分割協議において、不動産については鑑定評価額を基礎に協議を行ない、Mさんがやや譲歩する形で話がまとまりました。早めの段階で不動産鑑定評価を行ない、適正な鑑定評価額をもって遺産分割協議を進めることで、争いが泥沼(どろぬま)化することを回避することができました。

 

このように、過去に不動産が生前贈与され、その持ち戻しを検討しなければならない場合や、遺産分割協議が長期化しており、過去時点の不動産価格が問題となる場合においても、不動産鑑定評価は大いに役立つものです。

 

◆円満な相続に向けて

 

以上、私がこれまで携わってきた相続案件の一部をご紹介させていただきました。よく相続には、次の3つの分野があるといわれます。

 

① 分割

② 納税

③ 節税

 

そして、これらの3分野すべてについて問題を解決できるような、完璧な相続対策は存在せず、3つのうち1つを重視すれば、残りの2つについては我慢が必要となってきます。例えば次のとおりです。

 

●「③ 節税」のために、現金を使って賃貸アパートを建築した場合、節税効果はあるかもしれませんが、分割しやすい資産である現金が、分割しにくい資産である不動産になるため、「① 分割」することが難しくなり、「② 納税」するための資金も減ってしまいます。

 

●逆に遺産を「① 分割」しやすくするために、不動産を売却して現金に変えた場合、「② 納税」資金は増えますが、大抵の場合、相続税の負担は重くなり、「③ 節税」の目的は果たすことが難しくなります。

 

私は、これら3つの分野のうち、最も重視すべきなのは「① 分割」であると考えます。自分が残した遺産が原因で子どもたちが争い、関係が壊れてしまうことは、親にとっては非常に悲しい出来事です。この点、私は声を大きくして皆様に訴えたいと思っています。

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本記事は、2017年9月22日刊行の書籍『円満相続をかなえる本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、予めご了承ください。

円満相続をかなえる本

円満相続をかなえる本

石川 宗徳,森田 努,島根 猛,佐藤 良久,近藤 俊之,幾島 光子

幻冬舎メディアコンサルティング

「対策が難しい相続」に悩む人に向けてプロフェッショナルが事例とともに分かりやすく解説。大切な資産と人間関係の守り方教えます! 「相続登記と遺言を行なうメリットってなんだろう?」「相続した不動産、売るべき?売ら…

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