白内障は、60代で約80%、80代でほぼ100%と、だれもが罹患する病気です。しかし、甘く見て放置していると、その裏で深刻な病気が進行しているケースもあるため注意が必要です。本記事では、白内障の手術について多く寄せられる質問に、眼科医が回答します。※本連載は、渡邊敬三氏の著書『誤差ゼロを追求する 渡邊式・白内障治療』(幻冬舎MC)より抜粋・再編集したものです。

「なるべく夏は避けたい」という相談があるが…

 Q  手術に向いている季節はありますか?

 

白内障手術を受ける前に、患者さんから「なるべく夏の暑い時期は避けたいのですが……」という相談を受けることがあります。

 

患者さんが夏を避けたがる理由は主に二つあります。一つは、術後にお風呂に入れなくなり、汗を流せなくて気持ち悪くなるから。もう一つは、「夏は高温なので涼しい時期よりも傷痕に雑菌が付きやすい」というイメージによるものです。

 

ただ、これらについては誤解されている面もあります。

 

まず術後のお風呂ですが、確かに眼の表面に付いた傷を保護するために、しばらく入浴も洗顔も控えなければいけません。家でいつものようにシャワーを浴びられるようになるのは、傷の過程を見ながら術後3~7日くらいが目安になります。

 

しかし、首から下のシャワーなら手術当日または翌日から可能ですし、眼を押さえなければ、絞ったタオルで顔を拭いても大丈夫です。さらに眼をぬらさないようにさえすれば、美容院でシャンプーしてもらうような体勢で髪を洗うこともできます。それができなくても、ドラッグストアなどで水で洗い流さないシャンプーが市販されているので、ある程度の清潔さを保つことができます。

 

また、術後はあまり出歩かず、涼しい室内で過ごすでしょうから、汗だくになるような状況は少ないはずです。

 

汗を流せないという理由だけで、漠然となんとなく夏は避けたいと考えている方は、ぜひ考え直してみてください。

 

 夏を避ける二つ目の理由、「感染症を起こしやすい」というのも、実際には誤りです。

 

白内障手術の合併症で、最も気をつけなければいけないのは「術後眼内炎」という細菌感染症です。この感染症と気温との関係については、各国の論文で数多く報告されています。

 

カナダ、韓国、オーストラリアの論文によると、眼内炎の発症に深く関わる結膜の細菌が増加するのは春であり、気温にすると12℃~22℃であるという報告があります。12℃~22℃というと、日本では4~6月の春から初夏にかけて、または10月~11月の秋から初冬にかけてです。近年の日本の夏は30℃超えの猛暑続きですから、この気温には当てはまりません。

 

これらのデータからは「眼内炎になりやすい春や秋の手術は避けたほうがいい」という結論も導き出されてしまいます。

 

しかし長年白内障の患者さんを診ている立場としては、滅菌・消毒といった感染症対策をしっかりしていれば、気候による影響はまず考えなくてもいいと強く感じています。なお、春が多いというデータは、手術室に新しいスタッフが配属される時期だという環境要因もあると思われます。

 

結論としては、手術に向いている季節や時期は特にありません。

 

ただ、プライベートや仕事、家族の都合などを考慮して手術日程を担当医に伝えるのは、一向に構いません。「留守にしやすい時期なので夏にしたい」「春を気持ち良く過ごすために、冬の間に受けておきたい」こういった要望は、ぜひ担当医にご相談ください。

 

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誤差ゼロを追求する 渡邊式・白内障治療

誤差ゼロを追求する 渡邊式・白内障治療

渡邊 敬三

幻冬舎メディアコンサルティング

手軽に白内障手術を受けられる時代だからこそ正しい知識とクリニック選びで、術後の視力は劇的に変わる! 患者一人ひとりのQOL(生活の質)の向上こそが白内障治療の最大の目的である。 「最善の白内障治療法」を日々追…

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