相続発生時、「認知症」などにより遺言の有効性についてトラブルが発生するケースが多発しています。知識を身につけ、もしもの時に備えましょう。今回は、認知症を理由に公正証書遺言が無効となった事例をご紹介します。

 

・平成一八年ころにアルツハイマー型認知症を発症したこと、記銘力障害を中心に入浴拒否傾向、無目的行動、徘徊などを時に呈することが記載されている

・日常生活自立度は「J2」及び「Ⅱb」の各欄にチェックが付されている。

・認知症の中核症状として、短期記憶は「問題あり」、日常の意思決定を行うための認知能力は「いくらか困難」、自分の意思の伝達能力は「いくらか困難」の各欄にチェックが付されている。

・認知症の周辺症状として、「徘徊」の欄にチェックが付されている。

 

本件裁判例は、上記状態を前提としつつ、アルツハイマー型認知症を発症した平成18年ごろからの遺言者の医療記録、介護認定記録より、遺言者の認知症の状態、日常の異常行動について細かく認定をした上で、遺言者は

 

「本件遺言を行った当時、アルツハイマー型認知症により、その中核症状として、短期記憶障害が相当程度進んでおり、自己の話した内容や人が話した内容等、新たな情報を理解して記憶に留めておくことが困難になっていたほか、季節の理解やこれに応じた適切な服装の選択をすることができず、徘徊行動及び感情の混乱等も見られるようになっていたということができるから、その認知症の症状は少なくとも初期から中期程度には進行しており、自己の遺言内容自体も理解及び記憶できる状態でなかった蓋然性が高いといえる。」

 

と判断しました。これに加えて、遺言が複雑な内容であることも併せ認定し、遺言者は遺言作成当時遺言能力を欠いていたとして公正証書遺言を無効と判断しました。

 

なお、遺言作成当時、遺言者は、一人でテニスクラブに通っていたことや、医師の意見書で軽度のアルツハイマーであるとされていたという事情もありましたが、それでも判決では遺言能力がないと判断されています。

 

裁判所は、遺言者の認知症の症状のうち、以下の通り述べ短期記憶が失われていることを重視しているように見えます。

 

「遺言者の要介護認定・要支援認定の際に、被告の同席の下で調査が行われ、この中で、一日の予定を理解して記憶することができずに、一日に何度も確認する電話をかけること、電話の内容を記憶することができないこと、食事をしたことも忘れてしまうこと、外出して帰宅することが困難なときがあること、習慣的なことを除いてAの短期的な記憶能力や理解能力が失われていることなどが明らかにされている。」​

 

認知症が中程度でも公正証書遺言の無効を認めた、参考になる裁判例です。

 

 

※本記事は、北村亮典氏監修「相続・離婚法律相談」掲載の記事を転載・再作成したものです。

 

 

北村 亮典

こすぎ法律事務所 弁護士

 

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